神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
572 / 812

2月15日 心配してたんだよ

しおりを挟む
余程心配してくれたらしい紗奈を慰めていると、廊下からバタバタと騒がしい音が聞こえて来た。その音は勢いのまま保健室のドアを開く。
「夕音!」
他に人が居たらどうするつもりなのだ、と注意する間もなく飛び込んで来て、酷く安堵した表情を浮かべる。利羽や紗奈に気付いていないかのように反対側に滑り込み、投げ出したままの私の手を握った。
一応補足しておくと、私以外に体調不良者はいなかった。
「…夕音……」
悲痛な表情で、怯えるように私の名前を呼ぶ。私が入院していた時や、お母さんが倒れた時のことを思い出しているのだろう。何度も心配を掛けて申し訳ないとは思う。今回は友達にも心配を掛けてしまったようだし、罪悪感をしっかり受け止めることにした。
「…早…っ…ゆ、夕音、まだ…本調子じゃ…げほっ」
遅れて入って来た霙が、息も絶え絶えに話す。どうやら羅樹はドアを閉めることすら忘れて飛び込んで来たらしい。謝ろうと目線を上げるが、霙は息を整えるのに必死だ。羅樹を呼びに行く往復で全力疾走したのかもしれない。
そんな霙の意図を汲み取って、利羽が言葉を続けた。
「夕音、まだ本調子じゃないみたいなの。だから一度寝かせてあげてくれる?」
「え、あ、ごめんねっ」
羅樹が私の背中を支えながら寝かせてくれる。正直頭痛が酷くて座っているのもやっとだったので、とてもありがたかった。お礼も兼ねて視線を向けると、利羽は優しく微笑んだ。
「由芽ちゃんが先生を呼びに行ってるわ。榊原くんも来たし、私達はお暇しましょうか」
「そうだね。あんまり長居してもあれだし」
利羽に引っ張られるようにして紗奈も立つ。目を真っ赤にしてハンカチで押さえているため、どちらが体調不良か分からない。
「ありがとうね」
「どういたしまして。ゆっくり休んでね」
そう言うと、紗奈を連れて利羽が保健室を出て行く。霙はその背中を見送った後、私の方を向いてにっと笑った。
「私も部活に行きたいところだけど、帰って来た由芽が珍しい情報に沸くかもしれないし、もうちょっとだけいるね」
「…?」
首を傾げると、霙は苦笑いを返した。
「夕音が倒れた時って、いつも笑顔の人懐っこい人が珍しく感情を露わにするからさ。由芽としてはその辺の情報収集につい動きたくなっちゃうみたいなんだよね。不謹慎だけど」
なるほど。確かに羅樹がこんなに感情を露わにすることなんて滅多にないし、情報屋としては原因を知りたいところなのだろう。特に羅樹は情報集めが難しいそうだし。
「由芽は連れて帰るから安心して。榊原も、あんまり強く握ると夕音の血、止まっちゃうよ?」
霙の言葉に、羅樹がハッとする。その視線の先には、握り締められて白っぽくなった私の手があった。
しおりを挟む

処理中です...