121 / 812
5月13日、18時過ぎ
しおりを挟む
私は、竜夜くんと向かい合わせになるように立っていた。私の奥に夕陽の光と影が落ちる。
「い、稲森!」
竜夜くんは驚いて目を見開いた。私はいつまでも紗奈ちゃんの背中を見送る竜夜くんに呆れて話しかけたのだ。多分表情に出ているだろうけど。
「ため息ばっか。良いの?それで」
私は頭がズキズキしていた。竜夜くんの恋心が上手くいっていないという不安とどうしたらいいか熟考している為に私にも影響が出ているのだ。でも、竜夜くんは目を泳がせて、考える事をやめない。不安を紛らわせることが出来ないらしい。
「相手は…さ…」
そこまで言って、止めた。どうして知っているのかと聞かれて「気配」と答えるわけにはいかないし、かといって「気付いた、聞いた」などと言えば竜夜くんはもしかしたら本人にも気付かれているのではないか、と更に考え込むに違いない。それでは私がアドバイスをしに来た意味がない。更に自分を苦しめることになってしまう。
「誰が好きなのかは……知らないけど。竜夜くんは、何を迷っているの?」
私の言葉に、泣きそうになりながら途切れ途切れ返す竜夜くん。
「…関係が、崩れるのが……怖い」
いつも明るくて、クラスのムードメーカーの竜夜くんの、苦しそうな顔。私はそれを見るだけで、感じ取るだけで頭痛が酷くなりそうだった。
「ねぇ、君はなんで自信がないの?」
私が尋ねると、竜夜くんは目を泳がせて、か細い声で呟いた。
「…そ、んなの…わかんねぇ…よ…」
「教えてあげようか?」
頭痛と何と言うべきか分からないもどかしさに、つい反射的に答えてしまう。自分の言葉が耳に響いて、やっと何を言ったか解った。慌ててフォローしようとすると、ふわっと花が現れた。外側が薄く紅に色付いた花だった。
その花が、咲き乱れるように舞う。
「…ベゴニア」
「え?」
竜夜くんが気付いて、目を見開いた。私はそっと花を一輪摘むように持ち、竜夜くんに差し出した。戸惑いながら受け取る竜夜くんに、私は新しく脳裏に刻まれた言葉を紡ぐ。
「ベゴニア・センパフローレンスの花だよ…これ。花言葉は『片思い』」
竜夜くんは優しすぎるから。
周りに合わせて、笑っていられるような人だから。
子供っぽいと言われていても、本当に大人なのは竜夜くんだから。
「竜夜くん」
私は言葉に、恋使の感覚を混ぜた。
「君に似合ってるよ。…紗奈ちゃ…紗奈を困らせちゃえ。きっと、想いは届くから…」
私は、いたずらっぽく笑った。竜夜くんは、その言葉に何か感じたのか瞳にまっすぐな光が宿っていた。
そして、こくんっと頷くと、ぱたぱたと走って行ってしまった。
「いってらっしゃい、竜夜くん」
その背中を見送りながら、そっと呟いた。
「い、稲森!」
竜夜くんは驚いて目を見開いた。私はいつまでも紗奈ちゃんの背中を見送る竜夜くんに呆れて話しかけたのだ。多分表情に出ているだろうけど。
「ため息ばっか。良いの?それで」
私は頭がズキズキしていた。竜夜くんの恋心が上手くいっていないという不安とどうしたらいいか熟考している為に私にも影響が出ているのだ。でも、竜夜くんは目を泳がせて、考える事をやめない。不安を紛らわせることが出来ないらしい。
「相手は…さ…」
そこまで言って、止めた。どうして知っているのかと聞かれて「気配」と答えるわけにはいかないし、かといって「気付いた、聞いた」などと言えば竜夜くんはもしかしたら本人にも気付かれているのではないか、と更に考え込むに違いない。それでは私がアドバイスをしに来た意味がない。更に自分を苦しめることになってしまう。
「誰が好きなのかは……知らないけど。竜夜くんは、何を迷っているの?」
私の言葉に、泣きそうになりながら途切れ途切れ返す竜夜くん。
「…関係が、崩れるのが……怖い」
いつも明るくて、クラスのムードメーカーの竜夜くんの、苦しそうな顔。私はそれを見るだけで、感じ取るだけで頭痛が酷くなりそうだった。
「ねぇ、君はなんで自信がないの?」
私が尋ねると、竜夜くんは目を泳がせて、か細い声で呟いた。
「…そ、んなの…わかんねぇ…よ…」
「教えてあげようか?」
頭痛と何と言うべきか分からないもどかしさに、つい反射的に答えてしまう。自分の言葉が耳に響いて、やっと何を言ったか解った。慌ててフォローしようとすると、ふわっと花が現れた。外側が薄く紅に色付いた花だった。
その花が、咲き乱れるように舞う。
「…ベゴニア」
「え?」
竜夜くんが気付いて、目を見開いた。私はそっと花を一輪摘むように持ち、竜夜くんに差し出した。戸惑いながら受け取る竜夜くんに、私は新しく脳裏に刻まれた言葉を紡ぐ。
「ベゴニア・センパフローレンスの花だよ…これ。花言葉は『片思い』」
竜夜くんは優しすぎるから。
周りに合わせて、笑っていられるような人だから。
子供っぽいと言われていても、本当に大人なのは竜夜くんだから。
「竜夜くん」
私は言葉に、恋使の感覚を混ぜた。
「君に似合ってるよ。…紗奈ちゃ…紗奈を困らせちゃえ。きっと、想いは届くから…」
私は、いたずらっぽく笑った。竜夜くんは、その言葉に何か感じたのか瞳にまっすぐな光が宿っていた。
そして、こくんっと頷くと、ぱたぱたと走って行ってしまった。
「いってらっしゃい、竜夜くん」
その背中を見送りながら、そっと呟いた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる