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2月15日 心配かけて
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「…ね!夕音!!」
大きな声と強く握られた手の感覚に目を開く。白っぽい天井が1番に目に入り、やがてぼやけた輪郭が皆の顔を象った。紗奈、利羽、由芽。3人が3人心配そうにこちらを覗いていた。
「……え、と…?」
とりあえず起きたことを伝えるために声を出す。思った以上にか細い声が出たことに驚きながら、体を起こす。勢いをつけすぎたのかと感じる程急激に頭に痛みが走り、目の前が歪んだ。フラつくままに目を瞑って俯くと、誰かが私を支えてくれる。多分由芽だ。
「………ん、あり、がと」
ようやく視界が落ち着いてきて、顔を上げる。予想通り私の背中を支えていたのは由芽であり、逆側に座った利羽が私の手を握っているのが見えた。紗奈は布団をぎゅっと握り締めて今にも泣きそうな顔をしている。
「ここは保健室よ。わかる?」
利羽の声掛けに頷く。少しずつ覚醒してきた意識と記憶を擦り合わせればおおよそ予想は付く。喪失した記憶もない。ただ単に倒れただけのようだ。おまけのように頭が酷く痛むけれど。
「今、何時?」
「えぇと、4時過ぎね」
「放課後!?」
驚いて時計を探すと、由芽が携帯画面を見せてくれた。そこにははっきりと16:04の表示が映っている。
「急に倒れたって霙から聞いたわ。その後気を失ったから保健室に運んだって」
由芽の説明が終わると同時に、ノックとドアの開く音がした。そろりと開いたカーテンから現れたのは、ちょうど話をしていた人物である。
「お、起きた?良かった」
「ありがとう、霙」
霙はにっと笑って、首を横に振る。お礼はいいよ、という意味のようだ。
「にしてもびっくりしたよ。飲み物買いに行ったら夕音が急に倒れたんだから。あの場面での廊下全力ダッシュは許して欲しいよね」
「いつも走ってるでしょ」
由芽の冷静なツッコミに茶目っ気たっぷりの表情をすると、霙は踵を返した。
「榊原呼んでくるよ。かなり心配してたし」
「えっ」
霙は止める間もなく、さっさと行ってしまう。慌てて身だしなみに気を遣おうとするが、頭が痛くて途中でフラついてしまう。気付いたらしい利羽が、私の髪から絡まったゴムを解いて手櫛で梳いてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
鈴を転がすような軽やかな声で、微笑み混じりに返される。優しさに甘えていると、由芽が困ったように笑った。
「どこか痛い?」
「…うん、頭が」
「そっか。親御さんは家にいる?」
「うん。いると思う」
「なら連絡してもらうよう頼んでくるわ。休んでて」
由芽はそう言って立ち上がると、保健室を出て行った。どうやら先生は不在のようだ。
「由芽ちゃんもそっけないふりしてるけど、凄く心配してたのよ」
「…そっか。ありがとう。心配かけてごめんね」
手櫛を終えた利羽が、小さく微笑んでくれた。その横で紗奈が目を真っ赤にして、ハンカチで口元を押さえていたのが可愛らしかった。
大きな声と強く握られた手の感覚に目を開く。白っぽい天井が1番に目に入り、やがてぼやけた輪郭が皆の顔を象った。紗奈、利羽、由芽。3人が3人心配そうにこちらを覗いていた。
「……え、と…?」
とりあえず起きたことを伝えるために声を出す。思った以上にか細い声が出たことに驚きながら、体を起こす。勢いをつけすぎたのかと感じる程急激に頭に痛みが走り、目の前が歪んだ。フラつくままに目を瞑って俯くと、誰かが私を支えてくれる。多分由芽だ。
「………ん、あり、がと」
ようやく視界が落ち着いてきて、顔を上げる。予想通り私の背中を支えていたのは由芽であり、逆側に座った利羽が私の手を握っているのが見えた。紗奈は布団をぎゅっと握り締めて今にも泣きそうな顔をしている。
「ここは保健室よ。わかる?」
利羽の声掛けに頷く。少しずつ覚醒してきた意識と記憶を擦り合わせればおおよそ予想は付く。喪失した記憶もない。ただ単に倒れただけのようだ。おまけのように頭が酷く痛むけれど。
「今、何時?」
「えぇと、4時過ぎね」
「放課後!?」
驚いて時計を探すと、由芽が携帯画面を見せてくれた。そこにははっきりと16:04の表示が映っている。
「急に倒れたって霙から聞いたわ。その後気を失ったから保健室に運んだって」
由芽の説明が終わると同時に、ノックとドアの開く音がした。そろりと開いたカーテンから現れたのは、ちょうど話をしていた人物である。
「お、起きた?良かった」
「ありがとう、霙」
霙はにっと笑って、首を横に振る。お礼はいいよ、という意味のようだ。
「にしてもびっくりしたよ。飲み物買いに行ったら夕音が急に倒れたんだから。あの場面での廊下全力ダッシュは許して欲しいよね」
「いつも走ってるでしょ」
由芽の冷静なツッコミに茶目っ気たっぷりの表情をすると、霙は踵を返した。
「榊原呼んでくるよ。かなり心配してたし」
「えっ」
霙は止める間もなく、さっさと行ってしまう。慌てて身だしなみに気を遣おうとするが、頭が痛くて途中でフラついてしまう。気付いたらしい利羽が、私の髪から絡まったゴムを解いて手櫛で梳いてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
鈴を転がすような軽やかな声で、微笑み混じりに返される。優しさに甘えていると、由芽が困ったように笑った。
「どこか痛い?」
「…うん、頭が」
「そっか。親御さんは家にいる?」
「うん。いると思う」
「なら連絡してもらうよう頼んでくるわ。休んでて」
由芽はそう言って立ち上がると、保健室を出て行った。どうやら先生は不在のようだ。
「由芽ちゃんもそっけないふりしてるけど、凄く心配してたのよ」
「…そっか。ありがとう。心配かけてごめんね」
手櫛を終えた利羽が、小さく微笑んでくれた。その横で紗奈が目を真っ赤にして、ハンカチで口元を押さえていたのが可愛らしかった。
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