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4月28日 ショッピングモール
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私と明さんはフードコートに座り、アイスクリームを頬張っていた。私は一つ目のアイスを食べ終わって、下に隠れていたアイスを食べ始めた。話しかけながら食べているのでいつもより少し遅い。しかし、明さんはいつもと変わらないハイペースでコーンを食べ始めている。
「早いねー」
私が笑いながらそう言うと、明さんはコーンを頬張りながら嬉しそうに頷いた。明さんは元々、表情が豊かな方ではない。いつも無表情に見えるが、ちょっとずつ違うらしい。私も最近、少しずつ分かってきた。
「…美味しいもの、好き」
先程までコーンを握っていたはずの手を拭い、そっと立ち上がった。
「どこ行くの?」
「メロンパン、買ってくる」
「え、まだ食べるの?」
アイス四段を食べた後にメロンパンを買うなんて考え、私には無かったのでとても驚いた。しかし明さんは嬉しそうに頷いたので、自然と笑顔になって「いってらっしゃい」と送り出した。
明さんが行ったのを見送りながら、溶けかけているアイスを食べる。4月限定の桜あんみつ味は、桜の塩漬けを使用しているらしく、甘さの中にほのかにしょっぱさが混ざっていた。
そういえば、明さんに好きな人はいるのだようか。
いたとしても、話してくれるだろうか。
仲良くなれたとしても、好きな人や恋愛の話はデリケートな話だ。私もいきなり羅樹について話せと言われても、恥ずかしいし困る。もし相手に彼女がいて、それでも諦めきれないという相談をされても無神経なことを言ってしまうかもしれない。それが怖いけれど、聞いてみようかな、と思った。最後の一口を口の中に放り込み、飲み込んだ瞬間明さんが両腕いっぱいにメロンパンが入ったビニール袋を抱え、戻ってきた。
「おかえり。…それ、全部食べるの?凄いね…」
私もお腹が空いていたとはいえ、夕飯もある。アイス二段で小腹は満たされた。明さんはさっきと同じように嬉しそうに頷いた。
メロンパンのビニール袋が山盛りになった頃、明さんが口を開いた。
「私、食べるの好き」
私の耳に、強く響いた声。じんわりと広がっていくような美しい声。
少しの間、聞き惚れた。
「…夕音さん?」
「あ、う、うん!よく食べるね!」
心配そうに明さんに顔を覗き込まれて、慌てて手を振りながら話題を変える。
「うん、美味しいもの食べると幸せ。誰かと食べるの、好き」
そう言って、差し出されるメロンパン。私は戸惑った。
「夕音さんも、食べて」
「え、いいよ!私は…」
「…誰かと食べた方が、美味しい」
明さんにそう言われて、私は何も言えなくなってしまった。おそるおそるメロンパンを手に取ると、明さんはぱっと顔を輝かせて、微笑んだ。
始めて見る、笑顔。
私はその姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。
「早いねー」
私が笑いながらそう言うと、明さんはコーンを頬張りながら嬉しそうに頷いた。明さんは元々、表情が豊かな方ではない。いつも無表情に見えるが、ちょっとずつ違うらしい。私も最近、少しずつ分かってきた。
「…美味しいもの、好き」
先程までコーンを握っていたはずの手を拭い、そっと立ち上がった。
「どこ行くの?」
「メロンパン、買ってくる」
「え、まだ食べるの?」
アイス四段を食べた後にメロンパンを買うなんて考え、私には無かったのでとても驚いた。しかし明さんは嬉しそうに頷いたので、自然と笑顔になって「いってらっしゃい」と送り出した。
明さんが行ったのを見送りながら、溶けかけているアイスを食べる。4月限定の桜あんみつ味は、桜の塩漬けを使用しているらしく、甘さの中にほのかにしょっぱさが混ざっていた。
そういえば、明さんに好きな人はいるのだようか。
いたとしても、話してくれるだろうか。
仲良くなれたとしても、好きな人や恋愛の話はデリケートな話だ。私もいきなり羅樹について話せと言われても、恥ずかしいし困る。もし相手に彼女がいて、それでも諦めきれないという相談をされても無神経なことを言ってしまうかもしれない。それが怖いけれど、聞いてみようかな、と思った。最後の一口を口の中に放り込み、飲み込んだ瞬間明さんが両腕いっぱいにメロンパンが入ったビニール袋を抱え、戻ってきた。
「おかえり。…それ、全部食べるの?凄いね…」
私もお腹が空いていたとはいえ、夕飯もある。アイス二段で小腹は満たされた。明さんはさっきと同じように嬉しそうに頷いた。
メロンパンのビニール袋が山盛りになった頃、明さんが口を開いた。
「私、食べるの好き」
私の耳に、強く響いた声。じんわりと広がっていくような美しい声。
少しの間、聞き惚れた。
「…夕音さん?」
「あ、う、うん!よく食べるね!」
心配そうに明さんに顔を覗き込まれて、慌てて手を振りながら話題を変える。
「うん、美味しいもの食べると幸せ。誰かと食べるの、好き」
そう言って、差し出されるメロンパン。私は戸惑った。
「夕音さんも、食べて」
「え、いいよ!私は…」
「…誰かと食べた方が、美味しい」
明さんにそう言われて、私は何も言えなくなってしまった。おそるおそるメロンパンを手に取ると、明さんはぱっと顔を輝かせて、微笑んだ。
始めて見る、笑顔。
私はその姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。
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