神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
563 / 812

2月14日 子供みたいに

しおりを挟む
耳元で、酷く焦った息遣いが聞こえてくる。重なった心臓は恐らく、密着具合ではない理由で早鐘を打っている。私が驚いて小さく声を上げると、ビクッと肩を揺らして体を強張らせた。何かに怯えるような、張り詰めているような、そんな姿。
「羅樹?」
名前を呼ぶと、少しだけ腕の拘束が緩んだ。その隙に顔をあげると、いつもより近い距離に羅樹の端正な顔が現れる。惚れた欲目の考慮なんて昔から出来ていないけど、きっといつでも羅樹は格好良い。そんなことをぼんやり考えながら、子供のように怯える羅樹の瞳をじっと見つめる。
「羅樹、羅樹」
名前を呼ぶ度に、震えたり緩んだり忙しい。隙間を縫って青褪めた羅樹の頬に手を添えると、一瞬固まって視線を彷徨わせた。
「どうしたの」
優しく問い掛けるが羅樹はふるふると首を横に振り、また私の肩に顔を埋めた。これは、甘えてくれているのだろうか。それにしては酷く焦燥した様子である。
「羅樹、大丈夫だよ。ここにいるよ」
私の背中で探るように動いていた手が、ピタリと止まった。そしてそのまま、ただ強く抱き締められる。まるで存在を確認するように、側にいることを実感したいかのように。あまりの必死さに肺が押し潰されそうになって、絞り出すように「苦しい」と呟くと、慌てた様子で離された。
「…羅樹?」
頬を微かに赤く染まっている。その表情を隠すように私から顔を背けようとするのが何となく気に食わなくて、無理やり手を掴んだ。嫌なら振り解ける筈なのに、戸惑った様子でされるがままになっている。
何がきっかけでこうなったのかはわからない。
けど、その表情には見覚えがあって。
確か寂しいとか怖いとか、そういった感情を押し込める時に見せるものだと気付く。
ばかだなぁ。甘えていいって、教えたのに。
「羅樹」
今にも逃げようとしている羅樹を呼び止め、振り向かせる。観念したように振り向いた瞬間、私から羅樹に飛び込んで首の後ろに腕を回した。身長差があるせいか、少しよろけてしまったのが悔しい。驚く羅樹に、言い聞かせるように呟く。
「羅樹、したいことは言葉にしてって昔言ったよね。黙ってないでちゃんと言って。私が羅樹を拒むことなんてないって、教えてくれるだけで良いんだって、言ったよね」
子供のように不安に揺れ動いていた瞳が、私をまっすぐ見つめる。やがて覚悟を決めたように唇を開くと、酷くか細い声でねだった。
「…そばにいて」
「うん。いいよ。他には?」
「…ぎゅってしたい」
「今もしてるのに?いいよ、抱き締めて」
緊張した様子で伸びてきた腕が、私の腰を抱き留める。羅樹が落ち着くまで、しばらく抱き締めあっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...