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2月14日 子供みたいに
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耳元で、酷く焦った息遣いが聞こえてくる。重なった心臓は恐らく、密着具合ではない理由で早鐘を打っている。私が驚いて小さく声を上げると、ビクッと肩を揺らして体を強張らせた。何かに怯えるような、張り詰めているような、そんな姿。
「羅樹?」
名前を呼ぶと、少しだけ腕の拘束が緩んだ。その隙に顔をあげると、いつもより近い距離に羅樹の端正な顔が現れる。惚れた欲目の考慮なんて昔から出来ていないけど、きっといつでも羅樹は格好良い。そんなことをぼんやり考えながら、子供のように怯える羅樹の瞳をじっと見つめる。
「羅樹、羅樹」
名前を呼ぶ度に、震えたり緩んだり忙しい。隙間を縫って青褪めた羅樹の頬に手を添えると、一瞬固まって視線を彷徨わせた。
「どうしたの」
優しく問い掛けるが羅樹はふるふると首を横に振り、また私の肩に顔を埋めた。これは、甘えてくれているのだろうか。それにしては酷く焦燥した様子である。
「羅樹、大丈夫だよ。ここにいるよ」
私の背中で探るように動いていた手が、ピタリと止まった。そしてそのまま、ただ強く抱き締められる。まるで存在を確認するように、側にいることを実感したいかのように。あまりの必死さに肺が押し潰されそうになって、絞り出すように「苦しい」と呟くと、慌てた様子で離された。
「…羅樹?」
頬を微かに赤く染まっている。その表情を隠すように私から顔を背けようとするのが何となく気に食わなくて、無理やり手を掴んだ。嫌なら振り解ける筈なのに、戸惑った様子でされるがままになっている。
何がきっかけでこうなったのかはわからない。
けど、その表情には見覚えがあって。
確か寂しいとか怖いとか、そういった感情を押し込める時に見せるものだと気付く。
ばかだなぁ。甘えていいって、教えたのに。
「羅樹」
今にも逃げようとしている羅樹を呼び止め、振り向かせる。観念したように振り向いた瞬間、私から羅樹に飛び込んで首の後ろに腕を回した。身長差があるせいか、少しよろけてしまったのが悔しい。驚く羅樹に、言い聞かせるように呟く。
「羅樹、したいことは言葉にしてって昔言ったよね。黙ってないでちゃんと言って。私が羅樹を拒むことなんてないって、教えてくれるだけで良いんだって、言ったよね」
子供のように不安に揺れ動いていた瞳が、私をまっすぐ見つめる。やがて覚悟を決めたように唇を開くと、酷くか細い声でねだった。
「…そばにいて」
「うん。いいよ。他には?」
「…ぎゅってしたい」
「今もしてるのに?いいよ、抱き締めて」
緊張した様子で伸びてきた腕が、私の腰を抱き留める。羅樹が落ち着くまで、しばらく抱き締めあっていた。
「羅樹?」
名前を呼ぶと、少しだけ腕の拘束が緩んだ。その隙に顔をあげると、いつもより近い距離に羅樹の端正な顔が現れる。惚れた欲目の考慮なんて昔から出来ていないけど、きっといつでも羅樹は格好良い。そんなことをぼんやり考えながら、子供のように怯える羅樹の瞳をじっと見つめる。
「羅樹、羅樹」
名前を呼ぶ度に、震えたり緩んだり忙しい。隙間を縫って青褪めた羅樹の頬に手を添えると、一瞬固まって視線を彷徨わせた。
「どうしたの」
優しく問い掛けるが羅樹はふるふると首を横に振り、また私の肩に顔を埋めた。これは、甘えてくれているのだろうか。それにしては酷く焦燥した様子である。
「羅樹、大丈夫だよ。ここにいるよ」
私の背中で探るように動いていた手が、ピタリと止まった。そしてそのまま、ただ強く抱き締められる。まるで存在を確認するように、側にいることを実感したいかのように。あまりの必死さに肺が押し潰されそうになって、絞り出すように「苦しい」と呟くと、慌てた様子で離された。
「…羅樹?」
頬を微かに赤く染まっている。その表情を隠すように私から顔を背けようとするのが何となく気に食わなくて、無理やり手を掴んだ。嫌なら振り解ける筈なのに、戸惑った様子でされるがままになっている。
何がきっかけでこうなったのかはわからない。
けど、その表情には見覚えがあって。
確か寂しいとか怖いとか、そういった感情を押し込める時に見せるものだと気付く。
ばかだなぁ。甘えていいって、教えたのに。
「羅樹」
今にも逃げようとしている羅樹を呼び止め、振り向かせる。観念したように振り向いた瞬間、私から羅樹に飛び込んで首の後ろに腕を回した。身長差があるせいか、少しよろけてしまったのが悔しい。驚く羅樹に、言い聞かせるように呟く。
「羅樹、したいことは言葉にしてって昔言ったよね。黙ってないでちゃんと言って。私が羅樹を拒むことなんてないって、教えてくれるだけで良いんだって、言ったよね」
子供のように不安に揺れ動いていた瞳が、私をまっすぐ見つめる。やがて覚悟を決めたように唇を開くと、酷くか細い声でねだった。
「…そばにいて」
「うん。いいよ。他には?」
「…ぎゅってしたい」
「今もしてるのに?いいよ、抱き締めて」
緊張した様子で伸びてきた腕が、私の腰を抱き留める。羅樹が落ち着くまで、しばらく抱き締めあっていた。
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