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2月14日 探検
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普通であれば、他人の家を無遠慮に歩くなど失礼極まりない行為だろう。しかし羅樹とは幼馴染であり、かつて家中を探索しあった仲である。羅樹のお父さんがいない時は私の家に来るので、羅樹は私の家の構造どころか、どこに何があるかまで把握している。そちらが多いだけで、私だって昔は羅樹の家によく遊びに来ていた。1人で寂しさを隠そうとする羅樹に腹が立って、無理やり押し掛けたのだ。今思えばかなり大胆で強引もするが、それでも私が訪れる度、羅樹は泣きそうな顔で笑うものだから、反省するのを後回しにしていた。
「こんな感じだったっけ?」
走り回ってぶつかった柱や、かつておもちゃが置かれていた部屋、遊び疲れて2人で眠った羅樹のお父さんのベッドなど、見る度に様々な思い出が蘇る。それらはもう整頓されて、落ち着いた様相で待っている。子供時代の名残は隅に隠されて、何だかちょっと、寂しさを感じた。
埃を被ったおもちゃ箱に触れる。少しだけ出してみようか、と羅樹が悪戯っぽく笑い、丁寧に埃を払った後で箱を開けた。
「わっ、懐かしい!」
「本当、久しぶりに開けたよ」
私が先導して遊ぶことが多かったからか、羅樹のおもちゃ箱には人形など私好みのものがいくつか入っていた。混ざったのか、混ぜたのか。それはもう記憶にないが、また来ることの印だったのかもしれない。久しぶりにパペットを使って会話をすると、気恥ずかしさと共に昔に戻ったような気分になる。それからしばらく、おもちゃを取り出してはどういう遊びをしたかを思い出し、往時を懐かしんだ。
一通り見終えると、ふと顔を上げて視線を彷徨わせた。昔のまま変わらない、「らき」の看板の垂れ下がったドアが目に入る。
「羅樹の部屋だ!」
「え?」
おもちゃを片付けている羅樹を置いて、ドアを開ける。久しぶりに見るその部屋は、昔のように可愛らしい雰囲気はなくなり、代わりに落ち着いた様子でまとめられていた。
「羅樹の部屋に入るのも久しぶりだね」
見た目は変わらないものもいくつかあるが、見たことのない棚やベッドのシーツなど、目新しいものもたくさんある。わくわくして探索を続けようとするが、流石に部屋はまずいだろうと足を止める。私を追いかけてきた羅樹が、ドアからひょこっと顔を出した。
「夕音?」
「うん?」
窓際に寄っていた私は、羅樹の方に寄ろうとした瞬間、ふわりと近付く"晴れ"の気配を感じた。思わず振り向いて、窓の外を見る。学校とは反対側の方角に、誰の気配を感じ取ったのかわからずに止まる。窓の外を見つめ、ぼんやりと気配を手繰る。ヒペリカムとアキレアの花が、どこかで花咲く感覚がした。この2つは確か、明と鹿宮くんの花。
「…良かった」
やっと明の心が自由になれた。それが嬉しくて思わず微笑むと、ぐいっと腕を掴まれ体が反転した。
「…え?」
羅樹に抱き締められたせいだとは、すぐには気付けなかった。
「こんな感じだったっけ?」
走り回ってぶつかった柱や、かつておもちゃが置かれていた部屋、遊び疲れて2人で眠った羅樹のお父さんのベッドなど、見る度に様々な思い出が蘇る。それらはもう整頓されて、落ち着いた様相で待っている。子供時代の名残は隅に隠されて、何だかちょっと、寂しさを感じた。
埃を被ったおもちゃ箱に触れる。少しだけ出してみようか、と羅樹が悪戯っぽく笑い、丁寧に埃を払った後で箱を開けた。
「わっ、懐かしい!」
「本当、久しぶりに開けたよ」
私が先導して遊ぶことが多かったからか、羅樹のおもちゃ箱には人形など私好みのものがいくつか入っていた。混ざったのか、混ぜたのか。それはもう記憶にないが、また来ることの印だったのかもしれない。久しぶりにパペットを使って会話をすると、気恥ずかしさと共に昔に戻ったような気分になる。それからしばらく、おもちゃを取り出してはどういう遊びをしたかを思い出し、往時を懐かしんだ。
一通り見終えると、ふと顔を上げて視線を彷徨わせた。昔のまま変わらない、「らき」の看板の垂れ下がったドアが目に入る。
「羅樹の部屋だ!」
「え?」
おもちゃを片付けている羅樹を置いて、ドアを開ける。久しぶりに見るその部屋は、昔のように可愛らしい雰囲気はなくなり、代わりに落ち着いた様子でまとめられていた。
「羅樹の部屋に入るのも久しぶりだね」
見た目は変わらないものもいくつかあるが、見たことのない棚やベッドのシーツなど、目新しいものもたくさんある。わくわくして探索を続けようとするが、流石に部屋はまずいだろうと足を止める。私を追いかけてきた羅樹が、ドアからひょこっと顔を出した。
「夕音?」
「うん?」
窓際に寄っていた私は、羅樹の方に寄ろうとした瞬間、ふわりと近付く"晴れ"の気配を感じた。思わず振り向いて、窓の外を見る。学校とは反対側の方角に、誰の気配を感じ取ったのかわからずに止まる。窓の外を見つめ、ぼんやりと気配を手繰る。ヒペリカムとアキレアの花が、どこかで花咲く感覚がした。この2つは確か、明と鹿宮くんの花。
「…良かった」
やっと明の心が自由になれた。それが嬉しくて思わず微笑むと、ぐいっと腕を掴まれ体が反転した。
「…え?」
羅樹に抱き締められたせいだとは、すぐには気付けなかった。
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