558 / 812
2月14日 呼び方
しおりを挟む
小学校高学年になるかならないかくらいの頃。羅樹との関係を「友達」ではなく「幼馴染」と変えて呼び始めた頃に、男子に羅樹との呼び名を揶揄われた。最初は気にしていなかったが、周囲を見回して初めて「ちゃん」付けの違和感に気付いた。きっと気にしなければ良かったのだろうけど、私はそれが酷く恥ずかしく感じてしまって、すぐに羅樹に呼び方を変えるよう告げた。きょとんとした様子の羅樹は私の恥ずかしさを汲み取ってはくれず、慣れるのに相当な時間を要した。私は「羅樹くん」から「羅樹」へとさっさと変え、線を引いた。
男女における友人の関係は、長くは続かない。
本人たちが願っても周りがそうとは見てくれず、変に邪推して揶揄ってくる。しかも面倒なことに、私がずっと傍に居てくれる優しい羅樹に惹かれていたのは事実なのだ。そんなこと打ち明ければ「やはり」と噂が瞬く間に広がるに違いない。噂の中心になれば、悪意なき悪意が後ろ指をさしてくる。行きたくもない舞台の中心に祭り上げられて、好奇心の赴くままに私達の面白おかしく語る。
それが嫌で、苦しくて、怖くて、羅樹と幼馴染以外に男女の線を引いた。
昔みたいに仲良くなんて出来ない。そんなことしたらまた変に邪推されて、噂好きの誰かに騒ぎ立てられる。そんな目に合わないように出来ることは、羅樹に冷たくすることだった。羅樹と距離を置いて、仲良く見られないことだった。それでも男女の幼馴染という関係は好き合ってるように見られることも多く、羅樹に惚れた女の子にやっかみを受けたりもした。一切の関係を断つことは出来ない。昔と全く違う付き合いも出来ない。
その関係に苦しんだこともあるけれど、今はこうして目の前に羅樹がいる。私に微笑んでくれる、大好きな羅樹がいる。何故か恋人同士へと関係は変わったけど、今は振り向かせている最中。そんな風に、あの時悩んでいた自分に教えてあげたい。
「ふふっ」
「? どうしたの、夕音?」
思い出に浸っていたら、思わず笑ってしまった。何でもない、と誤魔化しつつ出して貰った紅茶で喉を潤す。
そういえば、頑張って「夕音」と羅樹が呼んだ時、初めて呼ばれた気がしなかった。振り返ってみても、羅樹が私を「夕音」と呼び捨てにした記憶はない。変えるのに相当時間がかかるほど馴染んでいたわけだし、それ以前に呼ばれている筈もない。それなのに、何だか「夕音」と叫ぶ声が耳に響いたのをよく覚えている。羅樹は声を荒げることがほとんどない。それどころか、水族館帰りのショッピングモールで私を助けてくれた時の大きな声が最初で最後な気がする。
じゃあどうして、羅樹が叫んだ記憶があったのだろう。
何か、大事なことを忘れてる気がする。
男女における友人の関係は、長くは続かない。
本人たちが願っても周りがそうとは見てくれず、変に邪推して揶揄ってくる。しかも面倒なことに、私がずっと傍に居てくれる優しい羅樹に惹かれていたのは事実なのだ。そんなこと打ち明ければ「やはり」と噂が瞬く間に広がるに違いない。噂の中心になれば、悪意なき悪意が後ろ指をさしてくる。行きたくもない舞台の中心に祭り上げられて、好奇心の赴くままに私達の面白おかしく語る。
それが嫌で、苦しくて、怖くて、羅樹と幼馴染以外に男女の線を引いた。
昔みたいに仲良くなんて出来ない。そんなことしたらまた変に邪推されて、噂好きの誰かに騒ぎ立てられる。そんな目に合わないように出来ることは、羅樹に冷たくすることだった。羅樹と距離を置いて、仲良く見られないことだった。それでも男女の幼馴染という関係は好き合ってるように見られることも多く、羅樹に惚れた女の子にやっかみを受けたりもした。一切の関係を断つことは出来ない。昔と全く違う付き合いも出来ない。
その関係に苦しんだこともあるけれど、今はこうして目の前に羅樹がいる。私に微笑んでくれる、大好きな羅樹がいる。何故か恋人同士へと関係は変わったけど、今は振り向かせている最中。そんな風に、あの時悩んでいた自分に教えてあげたい。
「ふふっ」
「? どうしたの、夕音?」
思い出に浸っていたら、思わず笑ってしまった。何でもない、と誤魔化しつつ出して貰った紅茶で喉を潤す。
そういえば、頑張って「夕音」と羅樹が呼んだ時、初めて呼ばれた気がしなかった。振り返ってみても、羅樹が私を「夕音」と呼び捨てにした記憶はない。変えるのに相当時間がかかるほど馴染んでいたわけだし、それ以前に呼ばれている筈もない。それなのに、何だか「夕音」と叫ぶ声が耳に響いたのをよく覚えている。羅樹は声を荒げることがほとんどない。それどころか、水族館帰りのショッピングモールで私を助けてくれた時の大きな声が最初で最後な気がする。
じゃあどうして、羅樹が叫んだ記憶があったのだろう。
何か、大事なことを忘れてる気がする。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる