神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
557 / 812

2月14日 2人のお茶会

しおりを挟む
どうしてこうなった。
頭を抱えたい気持ちを抑えて、羅樹の向かいに座る。現在私がいるのは羅樹の家のリビング。畳にローテーブルの置かれた部屋で、ケーキを出されている。井草の香りが懐かしい。そんな感傷に浸る現実逃避すら、胸の音が許してくれない。ばくばくと脈打つ心臓が壊れそうで気が気でない。向かいに座る羅樹はいつも通りニコニコ笑っているというのに。
「美味しい!夕音は料理上手だよね」
「いや…そうでもないけど…」
明に手伝ってもらったわけだし、レシピ通り作っただけだ。正直計量などが合ってるか不安になるので、器具から参考資料に揃えたいと思うのは私だけなのだろうか。ふとそんなことを考えていたことを思い出し、私もフォークに取った一口大のケーキを口に運ぶ。羅樹が用意してくれたのはチーズケーキだった。表面が狐色に焼けており、底と側面に付いたサクサクのタルト生地が味を引き締めている。滑らかな生地は甘すぎず、さっぱりと後を引かない爽やかな風味だ。
「美味しい」
「それ、お父さんが昨日買って来たやつなんだけどね。張り切ったのかワンホールで買って来ちゃったから、後で夕音の家に持っていこうとしてたんだ」
「わざわざいいのに。でもありがとう」
そういえば、これでもうお菓子の交換になったのだから、ホワイトデーも完了したようなものではないだろうか。羅樹は律儀に私の家族分まで用意するので少々気が引けていたのだ。自分の家族で食べ切れない分のケーキを分けてもらい、それで終わるならありがたい。
家族と同じ扱いを受けるのが少し悲しいなんて、そんなちょっとした乙女心は無視だ。
心の中で葛藤していると、不意に羅樹がくすくすと笑い始めた。何かと思って顔を上げると、羅樹が小さく首を横に振る。
「なんか、久しぶりだなって思って」
「え?一昨日も会ったじゃない」
「そうじゃなくて、僕の家でお話しするのが。夕音の家にはクリスマスとか、お父さんがいない時とかお世話になってるけど、夕音が僕の家に来ることってほとんどなかったでしょ?懐かしいなって思って」
確かに、小学校高学年くらいから羅樹の家には行きにくくて、避けていた。訪れるとしても玄関までで、最後に家の中に入ったのは何年ぶりか、わざわざ思い出さなければならない程昔である。その頃は確かに今よりも背が小さくて、関係に思い悩むことはなかったから懐かしい。
「そうだね。うん、久しぶり」
「でしょ?」
羅樹はきっと昔に戻った気分なのだろう。私も今、そんな気分だ。小さい頃、羅樹と毎日遊んでも飽きなかったあの日々。揶揄われることもなく、ここが全てだった昔の世界。
"夕音ちゃん"と、私に笑い掛けてくれる優しい羅樹。
あれ?いつから"夕音"って呼ぶように、なったんだっけ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...