神様自学

天ノ谷 霙

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2月13日 準備開始

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午前10時。私の家のインターホンが鳴った。直前にメッセージが来ていたので、相手は確実に明である。ドアを開けて答え合わせをすると、やはり明が立っていた。外は寒いようで、ファーのついたコートを羽織り、鼻の頭を赤くしている。
「いらっしゃい。入って荷物を置いたら、材料買いに行こうか」
「お邪魔、します」
明を部屋に上げ、自宅から持ってきたという型やら何やらを置くと、すぐに家を出た。材料はまだスーパーにあるだろうか。
道中、どういうものを作りたいかなどを話しながら2人で歩く。時折明の表情が柔らかく緩むのを見て、ふと鹿宮くんのことを思い出した。きっとこの2人が"晴れ"たのなら、明はもっと愛らしい表情を見せてくれるのだろう。それが嬉しくて、ちょっとだけ悔しかった。
「お、着いた着いた。えぇと、材料は…」
「板チョコと、生クリームと、あと…」
事前に決めておいたレシピに従って、材料を集める。何だかクエストみたいで、1つ材料を見つけるごとに達成感があった。意外と前日にも残っているもので、ありがたい。材料を揃えると、後で精算するということで私が払うことにした。荷物を半々に分けて2人で持つ。同じように帰路を歩むと、あっという間にお昼になった。帰ったら材料をしまい、先にお昼ご飯を食べようと話し掛ける。明は食べ物に目がないので、一瞬瞳を輝かせて喜んだ。子供のような無邪気な煌めき。それが嬉しくて、私も笑った。
「ただいまー」
「お邪魔します」
2度目の出入り。お母さんは珍しく用事があるとのことで、留守である。だからこそ私が明を呼べたのだが、その辺をわざわざ話す必要はないだろう。冷蔵庫に買って来たばかりの材料を入れ、代わりに何を食べようかと思案する。
「あ、ご飯残ってる」
炊飯器の中には、朝ご飯の残りがそのまま置かれていた。冷蔵庫には卵とネギがある。
「炒飯でも作ろうか」
「うん」
とりあえず材料を一通り出して、キッチンに並べる。分担してベーコンやネギを刻み、それらを炒めている間に卵を溶き、ご飯を入れ、味付けをし、と工程を進めていく。炒めるのや味付けを明に任せると、流石食べることが大好きなだけあって完璧であった。この調子ならお菓子作りも上手くいきそうである。微笑んでいると、スプーンに乗せた一口分を差し出された。
「味見、して?」
「んっ…ん!おいひいっ!」
口を覆いながら、舌先に乗って来た程良い塩味の付いたご飯に喜びの声を上げる。完成したことに気付き、皿を2人分出す。盛り付けると飲み物を用意し、2人でリビングに座った。
「「いただきます」」
2人で作り、2人で食べるご飯はとても美味しかった。
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