神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
547 / 812

2月12日 1番

しおりを挟む
「好きな人って…だって、俺よりもっと…」
「自分より強く相手を想う人がいたら、身を引かなきゃいけないの?」
鹿宮くんが、目を丸く見開いて息を呑んだ。私は窓の方へと視線を移し、窓際へと向かって歩いた。いつの間にか教室には私と鹿宮くんの2人だけになっていた。窓辺に背を付けて、振り向く。
「1番相手のことを好きな人が正義なの?」
「それ、は…だって、きっと1番相手のことを好きな人が、1番幸せに出来るから…」
「本当に?それがストーカーでも?」
鹿宮くんがビクッと肩を揺らす。私は目を伏せて、明の記憶を反芻する。明のことを好きだと告げた人の中には、叶わないと知ると暴力に走った者がいた。それは必ずしも、明を「美人だから」といった一辺倒の価値で見ていた者ばかりではない。情熱的に好意を伝え、どのくらい好きかを長々と語る者もいた。鹿宮くんが驚いたように、大声で叫ぶ者もいた。彼らの全員が全員、断られて素直に受け入れられたわけではない。ある者は暴言を吐き、ある者は手を出し、明に消えない傷を付けた。
鹿宮くんが思うように、情熱的に想いを伝えている人が本当に1番、相手のことが好きだということになるのだろうか。
「相手のことを誰よりも好きで、誰よりも一緒にいたいって思ってる人が、本当に1番幸せに出来るのかな」
「ストーカーは、違くないっすか…」
「じゃあ鹿宮くんは、何を基準に1番好きだって判断するの?」
「え?」
「自分より明のことが好きな人がいるって思ったんでしょ?どうしてそう思ったの?」
「それは…凄く情熱的な告白で、見てるこっちがドキドキするものだったからっすけど…」
「じゃあストーカーが同じような告白をしたら?」
私が鋭く目を細めると、鹿宮くんが戸惑ったような表情を浮かべた。
「尾行したり盗撮したりするくらい好きなんだよ。きっと、告白する時も情熱的だろうね。それこそ、鹿宮くんがドキドキするくらい」
そこで鹿宮くんがハッと気付く。愕然とした表情で、震える手で口元を押さえていた。
「誰が1番好きかなんてわからないよ。争うこと自体が無意味なんじゃないかな」
私は後ろ手でロックを解除し、窓を開ける。冷たい風が温かい空気を押し上げるように入って来た。
「明の幸せは明が決めることだよ。決める前に身を引いたら、それこそ明の選択肢を狭めることになると思わない?」
私の言葉によろけた鹿宮くんが、近くの机に手を突く。その上には、光に包まれた小さな花束があった。中には鋸のようなギザギザした葉に囲まれた、小さな花々が綺麗に咲いている。固まるように身を寄せ合って咲く花は、傷を慰めているようにも見えた。
「アキレアの花言葉は、真心。傷を癒す薬効もある花だよ。明の傷を癒したいなら、正々堂々勝負しなよ」
ふわりと鹿宮くんの手元で舞った花は、いつの間にか風に吹かれて消えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...