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2月12日 1番
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「好きな人って…だって、俺よりもっと…」
「自分より強く相手を想う人がいたら、身を引かなきゃいけないの?」
鹿宮くんが、目を丸く見開いて息を呑んだ。私は窓の方へと視線を移し、窓際へと向かって歩いた。いつの間にか教室には私と鹿宮くんの2人だけになっていた。窓辺に背を付けて、振り向く。
「1番相手のことを好きな人が正義なの?」
「それ、は…だって、きっと1番相手のことを好きな人が、1番幸せに出来るから…」
「本当に?それがストーカーでも?」
鹿宮くんがビクッと肩を揺らす。私は目を伏せて、明の記憶を反芻する。明のことを好きだと告げた人の中には、叶わないと知ると暴力に走った者がいた。それは必ずしも、明を「美人だから」といった一辺倒の価値で見ていた者ばかりではない。情熱的に好意を伝え、どのくらい好きかを長々と語る者もいた。鹿宮くんが驚いたように、大声で叫ぶ者もいた。彼らの全員が全員、断られて素直に受け入れられたわけではない。ある者は暴言を吐き、ある者は手を出し、明に消えない傷を付けた。
鹿宮くんが思うように、情熱的に想いを伝えている人が本当に1番、相手のことが好きだということになるのだろうか。
「相手のことを誰よりも好きで、誰よりも一緒にいたいって思ってる人が、本当に1番幸せに出来るのかな」
「ストーカーは、違くないっすか…」
「じゃあ鹿宮くんは、何を基準に1番好きだって判断するの?」
「え?」
「自分より明のことが好きな人がいるって思ったんでしょ?どうしてそう思ったの?」
「それは…凄く情熱的な告白で、見てるこっちがドキドキするものだったからっすけど…」
「じゃあストーカーが同じような告白をしたら?」
私が鋭く目を細めると、鹿宮くんが戸惑ったような表情を浮かべた。
「尾行したり盗撮したりするくらい好きなんだよ。きっと、告白する時も情熱的だろうね。それこそ、鹿宮くんがドキドキするくらい」
そこで鹿宮くんがハッと気付く。愕然とした表情で、震える手で口元を押さえていた。
「誰が1番好きかなんてわからないよ。争うこと自体が無意味なんじゃないかな」
私は後ろ手でロックを解除し、窓を開ける。冷たい風が温かい空気を押し上げるように入って来た。
「明の幸せは明が決めることだよ。決める前に身を引いたら、それこそ明の選択肢を狭めることになると思わない?」
私の言葉によろけた鹿宮くんが、近くの机に手を突く。その上には、光に包まれた小さな花束があった。中には鋸のようなギザギザした葉に囲まれた、小さな花々が綺麗に咲いている。固まるように身を寄せ合って咲く花は、傷を慰めているようにも見えた。
「アキレアの花言葉は、真心。傷を癒す薬効もある花だよ。明の傷を癒したいなら、正々堂々勝負しなよ」
ふわりと鹿宮くんの手元で舞った花は、いつの間にか風に吹かれて消えていた。
「自分より強く相手を想う人がいたら、身を引かなきゃいけないの?」
鹿宮くんが、目を丸く見開いて息を呑んだ。私は窓の方へと視線を移し、窓際へと向かって歩いた。いつの間にか教室には私と鹿宮くんの2人だけになっていた。窓辺に背を付けて、振り向く。
「1番相手のことを好きな人が正義なの?」
「それ、は…だって、きっと1番相手のことを好きな人が、1番幸せに出来るから…」
「本当に?それがストーカーでも?」
鹿宮くんがビクッと肩を揺らす。私は目を伏せて、明の記憶を反芻する。明のことを好きだと告げた人の中には、叶わないと知ると暴力に走った者がいた。それは必ずしも、明を「美人だから」といった一辺倒の価値で見ていた者ばかりではない。情熱的に好意を伝え、どのくらい好きかを長々と語る者もいた。鹿宮くんが驚いたように、大声で叫ぶ者もいた。彼らの全員が全員、断られて素直に受け入れられたわけではない。ある者は暴言を吐き、ある者は手を出し、明に消えない傷を付けた。
鹿宮くんが思うように、情熱的に想いを伝えている人が本当に1番、相手のことが好きだということになるのだろうか。
「相手のことを誰よりも好きで、誰よりも一緒にいたいって思ってる人が、本当に1番幸せに出来るのかな」
「ストーカーは、違くないっすか…」
「じゃあ鹿宮くんは、何を基準に1番好きだって判断するの?」
「え?」
「自分より明のことが好きな人がいるって思ったんでしょ?どうしてそう思ったの?」
「それは…凄く情熱的な告白で、見てるこっちがドキドキするものだったからっすけど…」
「じゃあストーカーが同じような告白をしたら?」
私が鋭く目を細めると、鹿宮くんが戸惑ったような表情を浮かべた。
「尾行したり盗撮したりするくらい好きなんだよ。きっと、告白する時も情熱的だろうね。それこそ、鹿宮くんがドキドキするくらい」
そこで鹿宮くんがハッと気付く。愕然とした表情で、震える手で口元を押さえていた。
「誰が1番好きかなんてわからないよ。争うこと自体が無意味なんじゃないかな」
私は後ろ手でロックを解除し、窓を開ける。冷たい風が温かい空気を押し上げるように入って来た。
「明の幸せは明が決めることだよ。決める前に身を引いたら、それこそ明の選択肢を狭めることになると思わない?」
私の言葉によろけた鹿宮くんが、近くの机に手を突く。その上には、光に包まれた小さな花束があった。中には鋸のようなギザギザした葉に囲まれた、小さな花々が綺麗に咲いている。固まるように身を寄せ合って咲く花は、傷を慰めているようにも見えた。
「アキレアの花言葉は、真心。傷を癒す薬効もある花だよ。明の傷を癒したいなら、正々堂々勝負しなよ」
ふわりと鹿宮くんの手元で舞った花は、いつの間にか風に吹かれて消えていた。
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