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2月3日 噂の否定
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翌日、明の周りを飽きもせず昨日と同じ面子が囲んでいた。明は昨日と同じように困惑した様子だったが、その瞳にははっきりとした抵抗の意思が見て取れた。
「おはよう」
「おはよ~」
昨日のことを霙に報告しようにも、彼女の姿は教室になかった。由芽もいないため、演劇部で朝練でもあるのだろう。2人はクラスでも朝早くから教室にいるタイプなので、いなかったら演劇部で用事がある可能性が高い。
そんなことを考えつつ、目の前の状況をどうしようかと練る。明は何度か口を開こうとして、迫り来る言葉の雨に噤み、視線を彷徨わせていた。昨日とあまり変わらないように見えるが、それにしては頻度が高い。少しは勇気が出たのかもしれない。どうやって他の人を引き離そうか、と考えたところで大きな声が耳に届いて来た。戸惑いがちで、少し震えた声。それは間違いなく、明の声だった。
「あの、私…付き合って、ない、よ」
決して語尾が荒いわけではない。怒声でもない。びっくりマークが付くような元気な声というわけでもない。明の声は落ち着いたトーンであるが、大きく教室に通った。普段聞かない彼女の、少しだけ張り上げた声。そのたった一言で、教室は静まり返った。明は人々の視線を一身に受け、一瞬怯えたように体を縮こまらせる。勇気を出した彼女に、更なる追及の声が飛ぶ前に。
私の口は勝手に動いていた。
「じゃあ皆、噂に踊らされてたってこと?」
静まり返った教室の中で、私の声はよく響いた。明を囲っていた女子達が振り返り、私に視線を移す。私は彼女達に軽蔑の目を向けた。
「事実確認もしないで騒いでたの?あり得ない」
吐き捨てるようにそう告げると、リーダー格の女の子はカァっと顔を赤らめ、怒りに任せて叫んだ。
「何言ってるの!?私達は昨日から聞いてたわ!事実を確認するために!それなのに否定しなかったのは水奈月さんでしょ!?」
「でも肯定もしてなかったと思うけど」
「それは!…恥ずかしがってただけかなって!話の内容が内容だし、認めるのが照れくさかっただけだと思ってたのよ!」
「そんな内容の話を、クラスの中心で騒ぎ立ててたの?」
私はわざと驚くふりをして、信じられないという目を向ける。明への視線はもう私と彼女に移っている。こういう時に目立つのは、何故だか慣れてしまっていた。
「そんなつもりは…!早く否定してくれればこんなことにはならなかったわ!」
「もしかして、昨日から言おうとしてたんじゃないの?」
遠くから聞こえて来たのは、学校一の情報通、由芽の声である。今度は視線がドア付近に立っている由芽に移った。
彼女が言うことは基本的に真実と言って過言ではない。由芽は握った情報を他者を救うために利用する傾向にあるため、真実以外を口にするのは嫌う。ブラフを張るのは得意だが、それを見抜ける相手などこの学校には存在しない。だから、今由芽が「もし」で話していることは事実の指摘でしかない。そのくらいは分かっているようで、囃し立てていた彼女達は押し黙る。
「明の言葉、本当に聞こうとしてたの?」
冷たい声に硬直する彼女達。噂に踊らされていただけで直接の原因ではないが、彼女らを悪くないと言えるだろうか。誹謗中傷に置き換えたらわかりやすい。今彼女達は事実を確認せず、噂だけを鵜呑みにして他者を責める人間でしかない。傷付けたのは変わりない。私は今、明の味方なのだ。
その時青っぽい髪が揺れるのが視界の端で見えた。凄まじい勢いで明に飛び込んだのは、霙である。
「私の許可なしに明と付き合おうなんて、100年早いんだよ!」
その校舎中に響きかねない大声で、噂がデマであることが瞬く間に広がった。
「おはよう」
「おはよ~」
昨日のことを霙に報告しようにも、彼女の姿は教室になかった。由芽もいないため、演劇部で朝練でもあるのだろう。2人はクラスでも朝早くから教室にいるタイプなので、いなかったら演劇部で用事がある可能性が高い。
そんなことを考えつつ、目の前の状況をどうしようかと練る。明は何度か口を開こうとして、迫り来る言葉の雨に噤み、視線を彷徨わせていた。昨日とあまり変わらないように見えるが、それにしては頻度が高い。少しは勇気が出たのかもしれない。どうやって他の人を引き離そうか、と考えたところで大きな声が耳に届いて来た。戸惑いがちで、少し震えた声。それは間違いなく、明の声だった。
「あの、私…付き合って、ない、よ」
決して語尾が荒いわけではない。怒声でもない。びっくりマークが付くような元気な声というわけでもない。明の声は落ち着いたトーンであるが、大きく教室に通った。普段聞かない彼女の、少しだけ張り上げた声。そのたった一言で、教室は静まり返った。明は人々の視線を一身に受け、一瞬怯えたように体を縮こまらせる。勇気を出した彼女に、更なる追及の声が飛ぶ前に。
私の口は勝手に動いていた。
「じゃあ皆、噂に踊らされてたってこと?」
静まり返った教室の中で、私の声はよく響いた。明を囲っていた女子達が振り返り、私に視線を移す。私は彼女達に軽蔑の目を向けた。
「事実確認もしないで騒いでたの?あり得ない」
吐き捨てるようにそう告げると、リーダー格の女の子はカァっと顔を赤らめ、怒りに任せて叫んだ。
「何言ってるの!?私達は昨日から聞いてたわ!事実を確認するために!それなのに否定しなかったのは水奈月さんでしょ!?」
「でも肯定もしてなかったと思うけど」
「それは!…恥ずかしがってただけかなって!話の内容が内容だし、認めるのが照れくさかっただけだと思ってたのよ!」
「そんな内容の話を、クラスの中心で騒ぎ立ててたの?」
私はわざと驚くふりをして、信じられないという目を向ける。明への視線はもう私と彼女に移っている。こういう時に目立つのは、何故だか慣れてしまっていた。
「そんなつもりは…!早く否定してくれればこんなことにはならなかったわ!」
「もしかして、昨日から言おうとしてたんじゃないの?」
遠くから聞こえて来たのは、学校一の情報通、由芽の声である。今度は視線がドア付近に立っている由芽に移った。
彼女が言うことは基本的に真実と言って過言ではない。由芽は握った情報を他者を救うために利用する傾向にあるため、真実以外を口にするのは嫌う。ブラフを張るのは得意だが、それを見抜ける相手などこの学校には存在しない。だから、今由芽が「もし」で話していることは事実の指摘でしかない。そのくらいは分かっているようで、囃し立てていた彼女達は押し黙る。
「明の言葉、本当に聞こうとしてたの?」
冷たい声に硬直する彼女達。噂に踊らされていただけで直接の原因ではないが、彼女らを悪くないと言えるだろうか。誹謗中傷に置き換えたらわかりやすい。今彼女達は事実を確認せず、噂だけを鵜呑みにして他者を責める人間でしかない。傷付けたのは変わりない。私は今、明の味方なのだ。
その時青っぽい髪が揺れるのが視界の端で見えた。凄まじい勢いで明に飛び込んだのは、霙である。
「私の許可なしに明と付き合おうなんて、100年早いんだよ!」
その校舎中に響きかねない大声で、噂がデマであることが瞬く間に広がった。
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