神様自学

天ノ谷 霙

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嘘吐きの噂 明

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※暴力表現があります。苦手な方はご注意ください。

ボロボロになった私を見て、不審げに見る者も多かった。私の友達はそんなことをする性格ではないと分かっていてくれたから、目に見えて避けるようなことはしなかった。それどころか男の嘘を見透かして傍に寄り添ってくれた。その態度が気に食わなかったらしい男は、今度は別の人からの告白を装って人気のないところに呼び出した。仲間内で囲むと、服で隠れる部分を中心に暴力を振るった。今度は自分が悪くないことをわかっているから、抵抗の声を上げた。泣いて、嫌だと叫んで、助けを求めた。その声に反応した人々が集まってくるのを感じると、男達は早々に逃げ出した。残された私の元に友達が駆け寄って来てくれたが、それすらも信用出来なくなって、私は段々と精神を病んだ。男という存在に怯え、告白の呼び出しにも応じなくなった。そのため暴力を振るっていた男のグループは、退散せざるを得なかったみたいで。仲の良かった霙や紗奈と行動を共にしていたため、1人きりを狙っての奇襲なども無く安心していた。
そんなある日のことだった。
私がとある男と付き合い始めた、という噂が広がったのだ。
勿論事実無根で、私は必死に否定した。しかし暴力事件から1年以上の時間が経っていたこともあり、多くの人が私の男性恐怖症を忘れ去っていた。長い付き合いである竜夜や富、雪とは普通に喋っていたことも手伝って、私の否定をそのまま受け取る人は少なかった。
そして私は、噂の出所であるその男の元へ向かわざるを得なかった。他の人に見られるのが嫌だからと、人気のないところで話をしようとしたのが裏目に出た。

「告白なんて受けていない」

「付き合ってない」

「何で嘘を吐いたの」

訴えるように叫ぶと、私の伸びた髪を掴んで壁へと叩き付けた。痛みに血が滲む。それでも外堀から埋められるのは嫌で、黙っていられなかった。話せばわかってくれると、まだ信じていた。
そんな期待は簡単に裏切られ、泣けば泣くほど強い力で痛め付けられた。苦しみは届かない。否定に力がない。また見えるところには傷が付かないよう、暴力を振るわれた。力無く、悟った。

私が泣けば泣くほど喜んで、私を悪者のように扱う。

驚くほど簡単に感情が抜け落ちた。人が変わったような私を見て不審に思う者も多かったが、恋の力だと根も葉もない噂で納得する馬鹿ばかりだった。噂の相手が学年でも人気の男子だったせいか、女子から妬みも受けた。「あんな素敵な男の子と付き合ってるのにどうしてそんなに暗いの?」とか「独り占めなんて最低」とか、謂れの無い誹りも受けた。毎日が辛かったのに、泣くことも出来なかった。早く日々が過ぎるのを待っていた。卒業と同時に噂は自然消滅していたけれど、それでも私の心は深く深く傷付けられ、今も精神を蝕み続けていた。
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