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2月2日 助けるための一歩
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放課後に入ってすぐ、また明が囲まれた。今度はクラスメイトだけでなく、噂を聞きつけた他クラスの子まで。面白可笑しく囃し立て、明の戸惑いに容赦なく色めき立つ。よく知りもしない相手によくそんなに無遠慮に言えるな、と眉を顰めていると、目の前で青がかった髪が翻った。視線を動かすと普段のおちゃらけた様子から一変した鋭い目付きで騒ぎの中心へと向かっていく。かつて恋人である雪くんに怒った時に見せた怒りの表情に、何となく似ている気がした。
しかし彼女が怒りの声を上げることはなかった。中心にいる女の子の手を掴むと、クラス中に響くくらいの大きな声で話す。
「明!今度の舞台の台本出来たか確認したいから、一緒に来てもらっていい?」
霙は明が頷く前に、割り込むようにして連れ出した。驚きながらも従う明。他の子が話を続ける前に何度も大きな声で「良かった~」だの演劇の話だのを繰り返すため、口を挟む暇もない。霙も明の戸惑いに気付いていたようだ。中学から仲が良いらしいし、当たり前かと納得する。そんな霙が教室を出る前にチラリと私に視線を向けた。バチっと目が合ったことは間違いない。一瞬の出来事であったが、その後の首の動きが不自然だったような気がして、私も後を追うことを決めた。バッグを掴んで何でもなさそうに廊下を出る。ちょうど迎えに来た羅樹と鉢合わせた。
「ごめん羅樹!先に帰ってて!」
「えっ!?」
説明する暇も惜しい。申し訳ないと思いながら羅樹を置き去りにして、廊下に出た瞬間早歩きを始める。霙と明を見失っては、先程の視線の意味がない。何となくだけれど、そう感じた。
2人が向かったのは、かつて霙が酸欠に耐えていた最上階裏通路。滅多に人の通らないその場所に、2人は隠れるようにしゃがんでいた。
「夕音」
ホッと安堵したような様子で、霙は私を呼ぶ。私の判断が間違っていなかったことに気付き、2人の側に近寄った。明は下を向いたまま蹲っている。
「やっぱり、さっきのは勘違いじゃなかったんだね」
「夕音もアイツらに怒ってるみたいだったから、きっと気付いてくれると思ったんだ」
霙の信頼がくすぐったい。しかし指示の意図は読めなかった。霙は悲しそうに表情を歪める。
「本当は私が話を聞けたら良いんだけど、今、部活休めなくて」
確か演劇部は来月の下旬に舞台があった筈だ。短いものではなく、長くしっかりとしたストーリーのもの。小道具作りや衣装合わせなど、人数を考慮しても簡単に休めないだろう。まして霙は由芽と共に主役級を務めることの多い人物である。確かにこの時期に霙は友人を優先することが難しい。
「わかった、私が聞くよ。明も良い?」
「…う、ん」
明も私のことを信頼してくれているようで、こくりと頷いてくれた。その様子を見て霙は安心したように微笑む。
「じゃあ行くね」
「うん、頑張ってね」
霙は名残惜しそうにしながら、体育館へ向かって駆け出した。残された私は明をじっと見つめる。明が口を開いてくれるのを、ただ待つことにした。
しかし彼女が怒りの声を上げることはなかった。中心にいる女の子の手を掴むと、クラス中に響くくらいの大きな声で話す。
「明!今度の舞台の台本出来たか確認したいから、一緒に来てもらっていい?」
霙は明が頷く前に、割り込むようにして連れ出した。驚きながらも従う明。他の子が話を続ける前に何度も大きな声で「良かった~」だの演劇の話だのを繰り返すため、口を挟む暇もない。霙も明の戸惑いに気付いていたようだ。中学から仲が良いらしいし、当たり前かと納得する。そんな霙が教室を出る前にチラリと私に視線を向けた。バチっと目が合ったことは間違いない。一瞬の出来事であったが、その後の首の動きが不自然だったような気がして、私も後を追うことを決めた。バッグを掴んで何でもなさそうに廊下を出る。ちょうど迎えに来た羅樹と鉢合わせた。
「ごめん羅樹!先に帰ってて!」
「えっ!?」
説明する暇も惜しい。申し訳ないと思いながら羅樹を置き去りにして、廊下に出た瞬間早歩きを始める。霙と明を見失っては、先程の視線の意味がない。何となくだけれど、そう感じた。
2人が向かったのは、かつて霙が酸欠に耐えていた最上階裏通路。滅多に人の通らないその場所に、2人は隠れるようにしゃがんでいた。
「夕音」
ホッと安堵したような様子で、霙は私を呼ぶ。私の判断が間違っていなかったことに気付き、2人の側に近寄った。明は下を向いたまま蹲っている。
「やっぱり、さっきのは勘違いじゃなかったんだね」
「夕音もアイツらに怒ってるみたいだったから、きっと気付いてくれると思ったんだ」
霙の信頼がくすぐったい。しかし指示の意図は読めなかった。霙は悲しそうに表情を歪める。
「本当は私が話を聞けたら良いんだけど、今、部活休めなくて」
確か演劇部は来月の下旬に舞台があった筈だ。短いものではなく、長くしっかりとしたストーリーのもの。小道具作りや衣装合わせなど、人数を考慮しても簡単に休めないだろう。まして霙は由芽と共に主役級を務めることの多い人物である。確かにこの時期に霙は友人を優先することが難しい。
「わかった、私が聞くよ。明も良い?」
「…う、ん」
明も私のことを信頼してくれているようで、こくりと頷いてくれた。その様子を見て霙は安心したように微笑む。
「じゃあ行くね」
「うん、頑張ってね」
霙は名残惜しそうにしながら、体育館へ向かって駆け出した。残された私は明をじっと見つめる。明が口を開いてくれるのを、ただ待つことにした。
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