神様自学

天ノ谷 霙

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2月1日 鈴

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しゃらん、と音がした。聞き覚えのある音にふと顔を上げる。腰まで伸びた黒髪が、波を描く。真っ直ぐに揺れたそれは白い肌を隠して、美しい顔を縁取った。
「明」
私の呼び掛けに、明は反応する。顔を向けて、こてんと小さく首を傾げた。話すのが苦手な彼女は、動きで意図を伝えることがしばしばある。
「鈴の音がしたから」
私が明に気付いた理由を述べると、明は納得したように首元から鈴を取り出した。小指の爪ほどの小さい鈴が、2つに重なり合っている。明るいオレンジ色と、鮮やかな水色。擦れ合って鳴り響く音は優しく、心地良かった。私は人差し指で鈴を突き、わざと音が鳴るように揺らした。
「良いよね、これ。何処にいても明がいるってわかるの」
私が鈴を褒めると、明は僅かに相好を崩した。幸せそうに、思い出すように。
「そう、だね。うん」
きっと彼女は、1年生の頃に亡くした友人のことを思い出しているのだろう。その話をいつ聞いたのかはもう覚えていないが、彼女に大切な鈴を貰ったことは覚えている。確か交通事故で亡くなったらしい。塞ぎ込んでいた時期もあるようだが、昇華出来たのか彼女の思い出をなぞる時に苦しそうな顔はしなくなった。
そういえば、明は鈴を失くしていた気がする。半月くらい前に鹿宮くんが持っていた。あの時、鹿宮くんは自分の恋心に自信が持てないと苦しんでいたが、ちゃんと消化出来たのだろうか。
「ねぇ明、少し前に鈴失くさなかった?」
私が問うと、明は少し驚いた顔をした。
「うん。紐が、緩んでた…みたいで。でも、桜が拾って、くれた」
思い出したのか、頬が赤く染まる。僅かな違いではあるが、肌が白いためよく映えた。明は恥ずかしさを誤魔化すためか鈴に指を掛ける。しゃらんと控えめな音が響いた。
「大事なもの、って言ってくれた」
「そうだね。でも次も鹿宮くんが拾ってくれるとは限らないし、気を付けなよ?」
「うんっ」
明はこくりと頷く。美しい顔立ちをしているのに所作は可愛らしいところがある。好きになる気持ちが理解出来る。亜美と並んで学年を代表する2大モテ女であるが、亜美に彼氏が出来てからこちらに熱を上げる人も多い。「好き」が理解出来ないと嘆く彼女が告白に了承することは無いのだけど。それにきっと、明の心は既に鹿宮くんに向いている。この情報は私が恋使であるから知っていることだが。ズルい方法で知ってしまったことなので、明も自覚はないし私も誰かに言う気はない。今のところ誰も知らないと思う。由芽は除く。
そんな彼女が、名前も知らない男子と噂になったのはこの翌日のことだった。
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