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1月30日 悩み事×葛藤
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「…ね、夕音?」
考え事に耽っていた頭に、声が響き渡る。慌てて顔を上げると、いつの間に帰って来たのか羅樹が不思議そうに首を傾げていた。
「あっ、な、何?」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫!そ、それより次、どこ行こうかっ!」
無理やり話題を転換したことに、羅樹は怪訝そうな顔をしたが突っ込むことはなかった。
「とりあえず歩こうか。何かあったら入ろう」
「う、うんっ」
羅樹が手を差し出してくれたが、私はそれに気付かず足早にショップの通りを歩き出した。さっきは私の買い物に付き合わせてしまったし、次は羅樹が行きたい店に入ろう。そしてその後もさりげなく羅樹が行きたい場所に誘導して、それで私の買い物に付き合わせないようにして、羅樹が退屈しないように気を付けよう。いつも私が振り回しているのだから、デートくらい私が羅樹に合わせないでどうするのだ。
そんな思考を何度も何度も繰り返して、スマートな行動をシミュレーションする。そして私は決意を胸に、顔を上げた。しかしそこは全く見覚えのないショップの通りであった。慌てて振り向いても、羅樹の姿はそこにはない。一瞬で血の気が引いていく。
まさか、私の行動に呆れて帰ってしまった?
いや、そんな筈ない。そんなことをする羅樹ではないと、私が1番わかっている。私は一つ深呼吸をすると、店の情報が書かれている看板を探した。どうやらここは4階のようで。先程羅樹といた階は2階だった筈である。私は無意識に歩き、そのまま階を跨いでしまったようだった。とりあえず携帯で謝罪と「どこにいる?」とのメッセージを送る。既読が付く気配はない。私はとりあえず2階に下りて、羅樹の姿を探した。しかしショッピングモールなだけあって広く、人も多い。平均より少し高い程度の私の背では埋もれてしまって、周りが見えない。しかも近くのショップが限定商品を売っているとかの宣伝が聞こえて来て、更に人が殺到してしまった。探すこともままならず、ただ人混みに流される。こんなことなら私の現在地を送って動かないようにする方が良策だったかもしれない。後悔しても後の祭りで、今は人混みから抜けるのが先決だ。人の流れに押されながら前へ前へと進む。携帯は通知に震えてくれない。縋るように画面に視線を落とすと、人混みをかき分けるために上げていた手が誰かに掴まれた。骨張った硬い手に、ぐいっと強引に引っ張られる。ホッと安堵したのも束の間、私はその手によって人混みの中から物陰へ連れ出されていた。
「あ、ありがとう、羅───」
顔を上げると、そこにいたのは羅樹ではなく。
見知らぬ男性達であった。
考え事に耽っていた頭に、声が響き渡る。慌てて顔を上げると、いつの間に帰って来たのか羅樹が不思議そうに首を傾げていた。
「あっ、な、何?」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫!そ、それより次、どこ行こうかっ!」
無理やり話題を転換したことに、羅樹は怪訝そうな顔をしたが突っ込むことはなかった。
「とりあえず歩こうか。何かあったら入ろう」
「う、うんっ」
羅樹が手を差し出してくれたが、私はそれに気付かず足早にショップの通りを歩き出した。さっきは私の買い物に付き合わせてしまったし、次は羅樹が行きたい店に入ろう。そしてその後もさりげなく羅樹が行きたい場所に誘導して、それで私の買い物に付き合わせないようにして、羅樹が退屈しないように気を付けよう。いつも私が振り回しているのだから、デートくらい私が羅樹に合わせないでどうするのだ。
そんな思考を何度も何度も繰り返して、スマートな行動をシミュレーションする。そして私は決意を胸に、顔を上げた。しかしそこは全く見覚えのないショップの通りであった。慌てて振り向いても、羅樹の姿はそこにはない。一瞬で血の気が引いていく。
まさか、私の行動に呆れて帰ってしまった?
いや、そんな筈ない。そんなことをする羅樹ではないと、私が1番わかっている。私は一つ深呼吸をすると、店の情報が書かれている看板を探した。どうやらここは4階のようで。先程羅樹といた階は2階だった筈である。私は無意識に歩き、そのまま階を跨いでしまったようだった。とりあえず携帯で謝罪と「どこにいる?」とのメッセージを送る。既読が付く気配はない。私はとりあえず2階に下りて、羅樹の姿を探した。しかしショッピングモールなだけあって広く、人も多い。平均より少し高い程度の私の背では埋もれてしまって、周りが見えない。しかも近くのショップが限定商品を売っているとかの宣伝が聞こえて来て、更に人が殺到してしまった。探すこともままならず、ただ人混みに流される。こんなことなら私の現在地を送って動かないようにする方が良策だったかもしれない。後悔しても後の祭りで、今は人混みから抜けるのが先決だ。人の流れに押されながら前へ前へと進む。携帯は通知に震えてくれない。縋るように画面に視線を落とすと、人混みをかき分けるために上げていた手が誰かに掴まれた。骨張った硬い手に、ぐいっと強引に引っ張られる。ホッと安堵したのも束の間、私はその手によって人混みの中から物陰へ連れ出されていた。
「あ、ありがとう、羅───」
顔を上げると、そこにいたのは羅樹ではなく。
見知らぬ男性達であった。
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