神様自学

天ノ谷 霙

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1月30日 触れ合いコーナー

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イルカとトレーナーが仲良く手を振って、イルカショーは幕を閉じた。ぞろぞろと中に戻る人混みに紛れて、私と羅樹も移動を開始する。
「凄かったね」
「うん!綺麗だし可愛いし、一つ一つに迫力があって…!」
抑えきれない思いを言葉にすると、羅樹はくすくすと笑って私の手を引く。いつの間に繋いでいたっけ、と疑問に思いながらも羅樹に連れられるまま移動する。先程途中だった水槽の前まで戻って来た。閑雅に泳ぐ魚達、水の流れを感じる大水槽。青い空間を覗けば、そこには自由を象徴するかのように色取り取りの海の生き物が笑い合っていた。その移ろい行く空間に少しだけお邪魔して、人の世の喧騒を忘れる。床は水の光を反射して、一部だけがキラキラと輝いていた。それが足元に来ると、自分も水の中に放り込まれたような覚束ない感覚に支配される。それが全く嫌ではなくて、むしろ楽しい。
ふと次の水槽に視線を動かすと「触れ合いコーナー」という文字が目に入った。
「羅樹、羅樹」
私が呼び掛けると、羅樹は耳を傾けてくれた。他の人の迷惑にならない声量で次のコーナーについて話をすると、羅樹も目を輝かせて頷く。了承の合図と取った私は、羅樹と連れ立って触れ合いコーナーへと向かう。そこにはナマコやヒトデなど、ぷよぷよした生き物達がじっと水底に鎮座していた。浅瀬でも生きていけるらしく、張られた水は30センチにも満たないように見える。
「手を洗ってから?みたいだね」
「そうだね。触ってみよう!」
看板に記されている注意事項や準備方法をよく読んでから、しっかりと従って水槽の前に再び立つ。そっと水の中に手を入れ、赤とオレンジが混ざったかのような色をしたヒトデに触れる。表面は柔らかくふよふよとしていて、意外な感触だ。隣で羅樹も水の中に手を入れており、その指先はナマコに触れている。モチモチした感触に揺れるが、ナマコは自ら動こうとはせずドンと構えていた。
「おぉー、こんな感じなんだ」
「柔らかいね」
最初に触った生き物から別の生き物へと、いくつかの種類を触り比べしてみたが、どれも柔らかくふにふにした感触であった。一部殻のようなゴツゴツした表面のものもあったが、どれも初めて触るものばかりでとても楽しかった。
再び手を洗って消毒もし、水族館内部巡りへと戻る。まだ見ていないところもあるのだ。中々に広い。ドーム型になった水槽や、沼地のようなスペース、熱帯雨林を表現したワイルドな展示など、それぞれの生態系に合わせたディスプレイによって、たくさんの国を一気に散歩したかのような気分になった。あっという間に回り終えてしまう。一通り見終えてもやはり私のお気に入りは大水槽である。あの海の中に1人放り込まれた気分はなかなか味わえず、感慨深いものがあった。
さて次はどこに行こうかと羅樹を見ると、時計を確認した羅樹は「ご飯にしようか」と小さく笑った。どうやらもう12時半を過ぎていたらしい。夢中になっていて全然気付かなかった。
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