神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
512 / 812

1月27日 一日の幻

しおりを挟む
放課後、教室で待つ。携帯を確認すると「用事があるから少しだけ待ってて!すぐ終わらせてくる」というメッセージが来ていた。友人達との朝の会話から、デートに誘おうと気負っていた私の気合は、空気が抜けた風船のように萎んでいく。下を向いていると、さらりと稲穂色の髪が揺れた。
その髪は夕陽を反射して、きらりと煌めく。朱色の瞳には夕焼けが映り込み、その姿は一瞬息を止めるようなものだった、と後に淑乃が語った。そして彼女は私には教えなかったが、もう一つその時の様子について思うことがあったらしい。それは私の教室である2年3組に訪れた、男子達の視線についてだ。普段は左下で緩く結んだ長い髪を、そのまま肩に垂らしている。それは広がることも少なく、ただの実用性を重視した髪型だと思われていた。しかし今日はどうだろうか。下ろすとさらりと伸びる金糸のような髪は、傾きかけた陽の下で幻想的な輝きを放つ。そんな髪を惜しげもなく晒し、一応は恋人となった想い人の遅れに憂い顔を浮かべている。紅玉のような瞳を軽く伏せ、気を紛らすように窓の外を眺める。言葉を発することなく吐息を零すその姿は、今まで彼女の美しさに気付かなかった鈍感な男の心臓を刺激した。
その時、手元の携帯が震える。羅樹から「おわつたよ」と短いメッセージが送られて来たのだ。変換もされていない文章に、急いだ気持ちが伝わってくる。読み取れた羅樹の優しさに温かい気持ちになって、自身が人目を集めていることにも気付かず微笑んだ。かろうじてセーターの袖で口元を隠したが、それは見ている者にとって逆効果であった。軽く伸ばし、手の甲まで隠し切っていたために。袖先から細く白い指が覗く。嬉しそうに細められた瞳。紅潮する頬。緩んだ唇は桜色に潤んでいる。思わずその視線を奪われていた男子が声を掛けそうになったところで、彼女の待ち人は現れた。ドアを遠慮なく開き、彼女の熱視線を一身に引き受ける幼馴染。2人が幼馴染であり、尚且つ登下校を共にしていることは周知の事実である。実際に交際を始める前から噂は立っていた。そんな相手がいることさえ忘れさせる姿であったのだ。今日の彼女は。
「待たせてごめんね、帰ろう!」
「うん」
再びデートの約束を取り付けようと意気込む。そして想い人の隣に並んで帰路へと歩み始めた。視線に全く気付いていない彼女は、すれ違う際にも気に留めることはない。ふわりと波打つ様に長い髪が揺れ、天使の調べを描いて行く。微かに漂った甘い香りは、様々な種類の花を絶妙な匙加減で混ぜ合わせたかのように鼻腔をくすぐった。その背を見送り、男達は一日いちじつの幻に敗北せざるを得なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...