511 / 812
1月27日 外堀埋込大作戦
しおりを挟む
朝のSHRを終えて机に突っ伏していると、口角を上げた由芽が前の席に座り、遅れて紗奈と利羽がやって来た。
「おはよう。髪を下ろしてるなんて珍しいね」
「寝坊しちゃって…羅樹を待たせるのも嫌だったし…」
「最近は榊原と登下校一緒だよね。前は時間ある時だけって感じだったのに、毎日一緒になっちゃって。これは交際宣言も秒読みかぁ!?」
紗奈が揶揄うように告げてくる。そういえば報告してなかった、と私は言葉に詰まった。当の紗奈は怒られるのを警戒してか首を引っ込め、私の拳骨に備えている。しかし私が無反応だったためか、恐る恐る顔を上げて首を傾げた。
「夕音、もしかして榊原くんと何かあった?」
利羽に図星を突かれて、反射的に顔が赤く染まる。その反応に瞳を輝かせて、紗奈と利羽が詰め寄って来た。
「なになになに~!?何かあったなー!?教えろー!」
「まさか榊原くんと…?」
私が何も言えずに口を閉ざしていると、呆れ顔の由芽が足を組み直して事も無げに告げた。
「付き合い始めたんだって」
「ちょっと由芽!?」
私が慌てて止めようとすると、由芽は楽しそうに目配せした。その行動に私の考えが読み切られていることに気付く。言いにくかったことの口火を切ってくれたのは、正直ありがたかった。
「…そうだけど、でも羅樹は私を心配した上での判断だから、恋愛感情とかそういうのじゃないし」
拗ねるようにして言うと、意味がわからないといった表情を向けられた。掻い摘んで説明すると、納得したと共に怪訝そうな顔を向けられる。
「榊原の考えが読めない…」
「夕音のことを大事に思ってるのは伝わってくるけど…」
「大事!?えっ…あっ…そ、そっか…?」
考えもしなかった発想に、戸惑う。確かにその気がないのに交際関係に発展させてでも私を守りたい、という気持ちはあるのかもしれない。それは大事に思われているというのと同義である、というのは乙女的発想を抜きにしてもほぼ確定であると思う。
「そうね。少なくとも憎からず思われていることは確実なんだから、外堀から埋めちゃえば良いのよ」
由芽が悪戯を思い付いたような表情で、くすりと笑う。紗奈と利羽もそれに乗っかるように畳み掛けて来た。
「恋人になったことには変わりないんだから、夕音がリードしちゃえば?」
「デートとか、少しでも意識を幼馴染から恋人に変えるよう頑張るしかないわね」
「…そ、そうだね…」
曖昧に相槌を打つことしか出来ない。恋人らしくリードすると言われても、実感がないのにそんな行動する勇気も起きない。あの時私は羅樹の「好き」を家族愛と同一視していたし、今もそうだと思っている。だからこそ恋人としての恋情を拒否されたら、立ち直れない。怖くて足が竦んでしまいそうになる。でもきっと、そうやって進まないのが駄目なんだ、と反省する。
今度、どこか出掛けに誘ってみようかな。
そんな思考はチャイムの音に制された。
「おはよう。髪を下ろしてるなんて珍しいね」
「寝坊しちゃって…羅樹を待たせるのも嫌だったし…」
「最近は榊原と登下校一緒だよね。前は時間ある時だけって感じだったのに、毎日一緒になっちゃって。これは交際宣言も秒読みかぁ!?」
紗奈が揶揄うように告げてくる。そういえば報告してなかった、と私は言葉に詰まった。当の紗奈は怒られるのを警戒してか首を引っ込め、私の拳骨に備えている。しかし私が無反応だったためか、恐る恐る顔を上げて首を傾げた。
「夕音、もしかして榊原くんと何かあった?」
利羽に図星を突かれて、反射的に顔が赤く染まる。その反応に瞳を輝かせて、紗奈と利羽が詰め寄って来た。
「なになになに~!?何かあったなー!?教えろー!」
「まさか榊原くんと…?」
私が何も言えずに口を閉ざしていると、呆れ顔の由芽が足を組み直して事も無げに告げた。
「付き合い始めたんだって」
「ちょっと由芽!?」
私が慌てて止めようとすると、由芽は楽しそうに目配せした。その行動に私の考えが読み切られていることに気付く。言いにくかったことの口火を切ってくれたのは、正直ありがたかった。
「…そうだけど、でも羅樹は私を心配した上での判断だから、恋愛感情とかそういうのじゃないし」
拗ねるようにして言うと、意味がわからないといった表情を向けられた。掻い摘んで説明すると、納得したと共に怪訝そうな顔を向けられる。
「榊原の考えが読めない…」
「夕音のことを大事に思ってるのは伝わってくるけど…」
「大事!?えっ…あっ…そ、そっか…?」
考えもしなかった発想に、戸惑う。確かにその気がないのに交際関係に発展させてでも私を守りたい、という気持ちはあるのかもしれない。それは大事に思われているというのと同義である、というのは乙女的発想を抜きにしてもほぼ確定であると思う。
「そうね。少なくとも憎からず思われていることは確実なんだから、外堀から埋めちゃえば良いのよ」
由芽が悪戯を思い付いたような表情で、くすりと笑う。紗奈と利羽もそれに乗っかるように畳み掛けて来た。
「恋人になったことには変わりないんだから、夕音がリードしちゃえば?」
「デートとか、少しでも意識を幼馴染から恋人に変えるよう頑張るしかないわね」
「…そ、そうだね…」
曖昧に相槌を打つことしか出来ない。恋人らしくリードすると言われても、実感がないのにそんな行動する勇気も起きない。あの時私は羅樹の「好き」を家族愛と同一視していたし、今もそうだと思っている。だからこそ恋人としての恋情を拒否されたら、立ち直れない。怖くて足が竦んでしまいそうになる。でもきっと、そうやって進まないのが駄目なんだ、と反省する。
今度、どこか出掛けに誘ってみようかな。
そんな思考はチャイムの音に制された。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
あの空の向こう
麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が
引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。
蒼…日本と外国のハーフ。
髪は艶のある黒髪。目は緑色。
喘息持ち。
病院嫌い。
爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)
職業は呼吸器科の医者。
誰にでも優しい。
健介…蒼の主治医。
職業は小児科の医者。
蒼が泣いても治療は必ずする。
陸斗…小児科の看護師。
とっても優しい。
※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。
この命が消えたとしても、きみの笑顔は忘れない
水瀬さら
青春
母を亡くし親戚の家で暮らす高校生の奈央は、友達も作らず孤独に過ごしていた。そんな奈央に「写真を撮らせてほしい」としつこく迫ってくる、クラスメイトの春輝。春輝を嫌っていた奈央だが、お互いを知っていくうちに惹かれはじめ、付き合うことになる。しかし突然、ふたりを引き裂く出来事が起きてしまい……。奈央は海にある祠の神様に祈り、奇跡を起こすが、それは悲しい別れのはじまりだった。
孤独な高校生たちの、夏休みが終わるまでの物語です。
ダイヤモンドの向日葵
水研歩澄
青春
『女子高校野球は番狂わせが起こらない』
そう言われるようになってから、もう久しい。
女子プロ野球リーグは女子野球専用ボールの開発や新救助開設などに代表される大規模改革によって人気を博すようになっていた。
女子野球の人気拡大に伴って高校女子硬式野球部も年を追うごとに数を増やしていった。
かつては全国大会のみ開催されていた選手権大会も、出場校の増加に従い都道府県予選を設ける規模にまで成長した。
しかし、ある時その予選大会に決勝リーグ制が組み込まれたことで女子高校野球界のバランスが大きく傾くこととなった。
全4試合制のリーグ戦を勝ち抜くために名のある強豪校は投手によって自在に打線を組み換え、細かな投手継投を用いて相手の打線を煙に巻く。
ほとんどの強豪校が同じような戦略を採用するようになった結果、厳しいリーグ戦を勝ち上がるのはいつだって分厚い戦力と名のある指揮官を要する強豪校ばかりとなってしまった。
毎年のように変わらぬ面子が顔を揃える様を揶揄して、人々は女子高校野球全国予選大会をこう呼ぶようになった。
────『キセキの死んだ大会』と。
産賀良助の普変なる日常
ちゃんきぃ
青春
高校へ入学したことをきっかけに産賀良助(うぶかりょうすけ)は日々の出来事を日記に付け始める。
彼の日々は変わらない人と変わろうとする人と変わっている人が出てくる至って普通の日常だった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる