神様自学

天ノ谷 霙

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1月27日 夢色

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ふわりと、宙に漂うような感覚がする。
その中で薄らと目を開けると、辺りは暗闇の中に包まれていた。
「…ここは…?」
呟いても返ってくる声はない。呼び掛けるように「恋音こいねさん」と呟いたが、その言葉に反応する気配もなかった。手や足、周囲を確認すると、私の格好は寝巻きのまま。恐らくここは夢の世界なのだろう。夢の中で夢だと気付くタイプの。
立ち上がって周りを見回すと、暗闇の中から確かに響き渡る声が聞こえて来た。

"……ね、ちゃっ………へんっ…………だっ………"

断片的に聞こえてくるその言葉の意味は分からない。誰の声かも分からない。知っている筈なのに、霞がかったように何かが邪魔をして記憶を引き出せない。意味も声の主も覚えがある筈なのに、どうしても思い出せない。自分の夢の中である筈なのに、意地悪だ。実に後味が悪い。
私が声の方向を見ると、背後から全く別の声が聞こえて来た。
「お前は、そう、狭間の者なのね」
狭間?
そう聞き返そうとして、振り向く。しかしその場所には誰もおらず、光の一粒すら存在しない。怪訝そうに首を傾げていると、また背後から声が聞こえて来た。
「行っておやり。お前を待つ者がいるわ」
その言葉に何だか懐かしいものを感じ、背中を押されるままに一歩踏み出す。その踏み込んだ足を中心に大きな円陣が描かれ、光が風に乗って舞った。オレンジ色の円陣に、熱を通すように金やピンク、赤の光が差し込まれていく。
「うん、じゃあ、またね」
するりと喉の奥から出て来た声は、とても幼くて。驚いて喉を押さえようとした瞬間に、目の前からキラキラしたものが飛び込んでくる。その正体はしっかりと知覚出来なかった。最後に一瞬だけ、水色の光が見えたような気がするけど、夢の狭間に隠れてしまってもう思い出せない。
「…うぅ…っ」
魘されるように目を覚ますと、そこは寝る前と変わらない自分の部屋であった。体を起こして辺りを確認しても、何の変化もない。
「…何か変な夢を見た気がする…」
違和感だらけで、何の意味も分からなくて、それでも私はその何かを知っている気がする夢。詳細は泡沫のように消えてしまったけれど、何か忘れてしまってはいけないことのような気がした。
後味の悪さに唾を飲み込む。携帯を開いて時間を確認すると、瞬く間に目が覚めた。羅樹が来る時間まであと20分。その間に支度を済ませて家を出なければならない。大慌てで準備をするため、階段を駆け降りた。
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