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1月22日 見つけたもの
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私には言えない。素直になるなんて私の中で1番難しいことだった。好きな人にこそ、頼ることが出来なかった。だから不安にさせてしまって、別れることになってしまった。決断を知らされた時、「嫌だ」って素直に言うことが怖かった。終わったんだっていう線引きを飛び越えることが出来なかった。飛び越えた先に何があるのか分からなくて、不安で、怖くて、踏み出すことを躊躇した。その一瞬で、結佑人を失った。
後悔の言葉が喉の奥に滲んで、千夏の心を反響する。
かつて千夏は友人からの手痛い裏切りによって誹謗中傷の的になり、周りへの迷惑を恐れた。人の噂も75日とは言うけれど、逆に言えば2ヶ月半もの間は常に好奇の視線に晒されるということだ。それは短い学生生活の中では永遠に感じられる程に長い。その苦しみを千夏は1人で背負うことを決めてしまった。仲の良かった花火や利羽、霙達から距離を置いて、迷惑を掛けないように振る舞っていた。気丈に、1人でも大丈夫だって演じて、苦しみを誤魔化していた。そしてその迷惑を掛けたくない対象に、恋人である藤上くんも含まれていた。いや、1番に避けていた。「こんな自分と恋人だって噂されたら、きっと結佑人も傷付いてしまう」と思い込んで、頼るべき相手を遠ざけてしまった。藤上くんも千夏の意図に気付いていなかったわけではない。何度か手を差し伸べようとして、助けようと尽力して、それでも拒絶され続ける辛さに、折れてしまったのだ。そこでもう少し続けていれば、なんて後から言える話である。最愛の相手から拒絶され続ける苦しみは、本人にしか分からないもので。私が千夏を救えたというのならば、一時的にでも手を掴んでもらえたのは、全部が全部私のお陰ではない。あの時千夏が限界だったこと、表面上で悪態をついても本心に気付ける耳を私が持っていたこと、他にも支えてくれる人がいると千夏が気付けたこと、たくさんの偶然が重なって出来たものだ。私だけの尽力じゃない。あの場にいたのが私じゃなくても、その人が千夏に一歩踏み込んでいればきっとその人が救世主になっていた。だからこの場所は私だけの場所じゃない。千夏が築き上げてきた絆のお陰。千夏が自分で作り出した救いの手なんだと、気付いてほしかった。
「…本当は、ずっと、言いたかった…!」
「助けてって、泣きたかった…!」
「結佑人に、離れないでって言いたかった…!!」
途切れながら紡がれる、千夏の本心。涙に震えた声の中でも、最後の言葉が最もはっきりと聞こえた。きっとそれが、1番の想い。
「やだ、本当はっ、ずっと嫌だった…!他の人に告白したって聞いて、胸が引き裂かれそうだった…!苦しくて、息が出来なくて、でも私のせいなんだからって、受け入れなくちゃってずっと思ってた…!せめて、私のことなんて忘れて幸せになって欲しいって思うのに、どうしても諦めきれなくてっ…!どうして隣にいるのが私じゃないんだろうって、ずっと悔しかった!!」
打ち付けるように叫ぶ千夏。私は千夏の頭を撫で、頷きながら話を聞いている。抱き締めていると甘い香りがしてきて、少しだけ目線を動かした。そして窓の外に人影を見つけ、バチッと目が合う。締まり切った窓から声はほとんど聞こえないだろうが、きっと気付いているのだろう。最愛の相手が泣いていることに。顔を青白く染め上げ、狼狽した様子の相手に思わず笑みが零れそうになる。私は手のジェスチャーだけで要件を伝える。伝わったのか、その相手は昇降口に向かって走り出した。
ホッと安堵して、恋使の役目を引き受ける。
甘い香りの正体は、スイセンの花だった。
「ねぇ千夏、知ってる?スイセンの花言葉は、もう1度愛して欲しい」
仄かな甘い香りが、千夏を包み込む。驚いて顔を上げる千夏に、私は優しく微笑んだ。
「答えを聞くまで、決めつけちゃだめだよ。見つけた本音は、きちんと相手に伝えなきゃ」
千夏の心の中で、何かが弾ける音がした。
後悔の言葉が喉の奥に滲んで、千夏の心を反響する。
かつて千夏は友人からの手痛い裏切りによって誹謗中傷の的になり、周りへの迷惑を恐れた。人の噂も75日とは言うけれど、逆に言えば2ヶ月半もの間は常に好奇の視線に晒されるということだ。それは短い学生生活の中では永遠に感じられる程に長い。その苦しみを千夏は1人で背負うことを決めてしまった。仲の良かった花火や利羽、霙達から距離を置いて、迷惑を掛けないように振る舞っていた。気丈に、1人でも大丈夫だって演じて、苦しみを誤魔化していた。そしてその迷惑を掛けたくない対象に、恋人である藤上くんも含まれていた。いや、1番に避けていた。「こんな自分と恋人だって噂されたら、きっと結佑人も傷付いてしまう」と思い込んで、頼るべき相手を遠ざけてしまった。藤上くんも千夏の意図に気付いていなかったわけではない。何度か手を差し伸べようとして、助けようと尽力して、それでも拒絶され続ける辛さに、折れてしまったのだ。そこでもう少し続けていれば、なんて後から言える話である。最愛の相手から拒絶され続ける苦しみは、本人にしか分からないもので。私が千夏を救えたというのならば、一時的にでも手を掴んでもらえたのは、全部が全部私のお陰ではない。あの時千夏が限界だったこと、表面上で悪態をついても本心に気付ける耳を私が持っていたこと、他にも支えてくれる人がいると千夏が気付けたこと、たくさんの偶然が重なって出来たものだ。私だけの尽力じゃない。あの場にいたのが私じゃなくても、その人が千夏に一歩踏み込んでいればきっとその人が救世主になっていた。だからこの場所は私だけの場所じゃない。千夏が築き上げてきた絆のお陰。千夏が自分で作り出した救いの手なんだと、気付いてほしかった。
「…本当は、ずっと、言いたかった…!」
「助けてって、泣きたかった…!」
「結佑人に、離れないでって言いたかった…!!」
途切れながら紡がれる、千夏の本心。涙に震えた声の中でも、最後の言葉が最もはっきりと聞こえた。きっとそれが、1番の想い。
「やだ、本当はっ、ずっと嫌だった…!他の人に告白したって聞いて、胸が引き裂かれそうだった…!苦しくて、息が出来なくて、でも私のせいなんだからって、受け入れなくちゃってずっと思ってた…!せめて、私のことなんて忘れて幸せになって欲しいって思うのに、どうしても諦めきれなくてっ…!どうして隣にいるのが私じゃないんだろうって、ずっと悔しかった!!」
打ち付けるように叫ぶ千夏。私は千夏の頭を撫で、頷きながら話を聞いている。抱き締めていると甘い香りがしてきて、少しだけ目線を動かした。そして窓の外に人影を見つけ、バチッと目が合う。締まり切った窓から声はほとんど聞こえないだろうが、きっと気付いているのだろう。最愛の相手が泣いていることに。顔を青白く染め上げ、狼狽した様子の相手に思わず笑みが零れそうになる。私は手のジェスチャーだけで要件を伝える。伝わったのか、その相手は昇降口に向かって走り出した。
ホッと安堵して、恋使の役目を引き受ける。
甘い香りの正体は、スイセンの花だった。
「ねぇ千夏、知ってる?スイセンの花言葉は、もう1度愛して欲しい」
仄かな甘い香りが、千夏を包み込む。驚いて顔を上げる千夏に、私は優しく微笑んだ。
「答えを聞くまで、決めつけちゃだめだよ。見つけた本音は、きちんと相手に伝えなきゃ」
千夏の心の中で、何かが弾ける音がした。
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