497 / 812
未伝心twin 編茶乃
しおりを挟む
終業式の日。今日は先生方も忙しくなるために、全ての活動が休みになる。音楽に精通している学校のために、1日練習が休みとなると困る生徒も多いもので。近所の遮音室のある施設は全て埋まっている。私は音楽家の家系であるため、家に帰ればそういった施設が準備されている。いつもは交代に行なっている練習も、この日は蓮乃と一緒に行っていた。
私は蓮乃との演奏が好きだ。互いを理解しているからこそ奏でられる音がある。その音が私は何よりも好きで、親の演奏よりも、有名なお偉いの演奏よりも好きだ。誰が何と言おうと私の最高の音が出せるのはこの瞬間のみである。だから毎年、この日が楽しみで仕方なかった。お母様に追い詰められても、私を探しに来てくれたのは蓮乃だった。精神的に限界の私を助けてくれるのは、いつも蓮乃だった。
だから、そんな蓮乃が、私との練習より優先することがあるなんて思ってなかった。
「…蓮乃?」
「おぅ」
「どこ行くの?」
「ちょっと用事があって。今日は練習部屋1人で使って良いぞ」
「えっ」
「じゃあな」
「待っ…」
蓮乃は笑顔を浮かべて、さっさと行ってしまった。私は衝撃に押し流されて、「待って」の一言も言い切れなかった。言ったところで、呼び止める言葉なんて何一つ思い浮かばなかったのだけど。
静かな絶望が私を支配する。蓮乃に頼り切った私の精神は、脆く儚く崩れていく。知らない蓮乃が、怖かった。音楽よりも大事な私の弟。
気付いたら、私の足は蓮乃の後を追っていた。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
追いかけた先で辿り着いたのは、かつて私が逃げ込んだ霜月神社。そこで蓮乃は、夕音ちゃんに呼び止められていた。そのまま2人で神社の中に入り、ベンチに腰掛けて話をしているのが見えた。もしかして、2人は恋人関係にあるのだろうか。だから私には秘密で会いに来たのだろうか。しかもクリスマス直前である。私と共に音楽一筋だと思っていたのに、いつの間に接近したのだろうか。
少し切ない気分になっていると、「あれ?編茶乃?」と声を掛けられた。振り返ると、蓮乃がきょとんとした顔を浮かべている。そういえば見つかった時の言い訳を考えていなかった。慌てて何かを言おうと口を開くが、何も出てこない。そんな私の状態に気付いたのか、蓮乃が呆れ顔でにやりと笑う。
「まぁ用事も終わったし、帰るか」
「えっ?いいの?あ、そっか。明日も会うの?」
「は?明日?何で」
「え、だって…付き合ってるんじゃ…」
「そんなわけないだろ!?」
「そ、そっか」
何となくホッとした気分になる。私は蓮乃の隣に並んで、帰路を歩み始めた。
「全く…ほら、早く行くぞ。何弾くか考えておけよ」
「! うん!」
なんだかんだ言って、私の演奏に付き合ってくれるらしい。やはり今日は、楽しみにしてた通りの良い日になりそうだ。
私は蓮乃との演奏が好きだ。互いを理解しているからこそ奏でられる音がある。その音が私は何よりも好きで、親の演奏よりも、有名なお偉いの演奏よりも好きだ。誰が何と言おうと私の最高の音が出せるのはこの瞬間のみである。だから毎年、この日が楽しみで仕方なかった。お母様に追い詰められても、私を探しに来てくれたのは蓮乃だった。精神的に限界の私を助けてくれるのは、いつも蓮乃だった。
だから、そんな蓮乃が、私との練習より優先することがあるなんて思ってなかった。
「…蓮乃?」
「おぅ」
「どこ行くの?」
「ちょっと用事があって。今日は練習部屋1人で使って良いぞ」
「えっ」
「じゃあな」
「待っ…」
蓮乃は笑顔を浮かべて、さっさと行ってしまった。私は衝撃に押し流されて、「待って」の一言も言い切れなかった。言ったところで、呼び止める言葉なんて何一つ思い浮かばなかったのだけど。
静かな絶望が私を支配する。蓮乃に頼り切った私の精神は、脆く儚く崩れていく。知らない蓮乃が、怖かった。音楽よりも大事な私の弟。
気付いたら、私の足は蓮乃の後を追っていた。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
追いかけた先で辿り着いたのは、かつて私が逃げ込んだ霜月神社。そこで蓮乃は、夕音ちゃんに呼び止められていた。そのまま2人で神社の中に入り、ベンチに腰掛けて話をしているのが見えた。もしかして、2人は恋人関係にあるのだろうか。だから私には秘密で会いに来たのだろうか。しかもクリスマス直前である。私と共に音楽一筋だと思っていたのに、いつの間に接近したのだろうか。
少し切ない気分になっていると、「あれ?編茶乃?」と声を掛けられた。振り返ると、蓮乃がきょとんとした顔を浮かべている。そういえば見つかった時の言い訳を考えていなかった。慌てて何かを言おうと口を開くが、何も出てこない。そんな私の状態に気付いたのか、蓮乃が呆れ顔でにやりと笑う。
「まぁ用事も終わったし、帰るか」
「えっ?いいの?あ、そっか。明日も会うの?」
「は?明日?何で」
「え、だって…付き合ってるんじゃ…」
「そんなわけないだろ!?」
「そ、そっか」
何となくホッとした気分になる。私は蓮乃の隣に並んで、帰路を歩み始めた。
「全く…ほら、早く行くぞ。何弾くか考えておけよ」
「! うん!」
なんだかんだ言って、私の演奏に付き合ってくれるらしい。やはり今日は、楽しみにしてた通りの良い日になりそうだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる