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1月14日 着せ替え人形
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被服室に着くと、待ってましたと言わんばかりに千夏が満面の笑みを向けてくる。私は少々居た堪れない気分になりながらも荷物を下ろし、千夏へ指示を仰いだ。
「1年生が作った服を試着してみて欲しいんだ」
「そんなことだろうとは思ってたけど…」
わくわくキラキラと目を輝かせている1年生。その熱意は千夏と同じくらいのもので、私には少々眩しい。
「サイズ合うの?」
「基本的にはサイズ決めて作るんだけど、この時期のはフリーサイズで作るって決まりがあってね。実際に友達やら誰やらに着せて、自分のどこが不足しているとか、縫いが甘いかとかを知るんだ」
「そうなんだ?」
「それで今日、モデル役を頼んだ子が病欠で困ってたんだよね。そしたら夕音が通ったからさ。駄目元でお願いしてみて良かったよ!」
千夏は私が帰宅部であることを知っているし、荷物を持って校門に向かって歩いていたら帰宅だと気付いていただろう。帰った後に用事がある可能性も否めないが、駄目元で頼んだとは思えない。
指摘するにも言葉がまとまらないので、そんな負の感情は脳の片隅に追いやって了承する。隣の準備室に通され、服を渡される。最初は私服に近いシンプルなシャツとガウチョパンツであった。西陽が閉められたカーテンの隙間から零れ落ちる部屋で1人、着替えを済ませる。
「着れたよ」
ドアを開けて顔を出すと、ガタンっと全員が全員作業の手を止めて立ち上がり、こちらを向いた。一斉に向けられた視線に、一瞬立ちすくむ。
「夕音、髪解いてもらっても良い?」
「え?良いけど…」
私は低い位置でサイドテールにしていた髪を解いた。稲穂色の髪が締め付けを失って、パラリと肩に零れる。
「じゃあこれ被って」
「帽子?」
渡されたのは、カンカン帽と呼ばれる麦わら帽子であった。服が薄手であることや寒色を主に使用していることから、初夏の雰囲気が漂う。
「凄い!綺麗です!」
「向日葵畑とか似合いそうです!」
「そのまま帽子を押さえていてください!写真撮ります!」
「えっ!?」
写真なんて聞いてない、と言う前にシャッターを切られてしまった。360度余すことなく細かく撮影される。千夏が写真を確認して頷くと、先程服を渡してきた子とは別の子が、私に服を差し出してきた。
「次はこれ、お願いします」
手に取ると、ふわふわのレースやフリルの重量感をたっぷりと感じる。これを着るのか、と視線で千夏に訴えたが、親指をぐっと立てられて見送られた。準備室で着替えると、持った時から感じていた通りロリータ系のワンピースだった。白とピンクを主に使用した、可愛らしさ満点のロリータファッションである。滅多に選ばない服装に違和感を覚えながらも、さっさと終わらせたいと千夏達の元へ戻った。次は大きなリボンカチューシャを頭に付けられ、手を後ろ目に気を付けした姿勢で写真を撮られる。足は交差する等の細かい指示があったが、果たしてこれは本当に簡易的なモデルなのだろうか。
「次はこれです。お願いします~」
間延びした口調の女の子に服を渡され、驚く。それは今まで試着した西洋風の服ではなく、完全に浴衣であったから。
「わっ、凄い」
思わずそんなことを呟きながら、次の服へと着替え始めた。
「1年生が作った服を試着してみて欲しいんだ」
「そんなことだろうとは思ってたけど…」
わくわくキラキラと目を輝かせている1年生。その熱意は千夏と同じくらいのもので、私には少々眩しい。
「サイズ合うの?」
「基本的にはサイズ決めて作るんだけど、この時期のはフリーサイズで作るって決まりがあってね。実際に友達やら誰やらに着せて、自分のどこが不足しているとか、縫いが甘いかとかを知るんだ」
「そうなんだ?」
「それで今日、モデル役を頼んだ子が病欠で困ってたんだよね。そしたら夕音が通ったからさ。駄目元でお願いしてみて良かったよ!」
千夏は私が帰宅部であることを知っているし、荷物を持って校門に向かって歩いていたら帰宅だと気付いていただろう。帰った後に用事がある可能性も否めないが、駄目元で頼んだとは思えない。
指摘するにも言葉がまとまらないので、そんな負の感情は脳の片隅に追いやって了承する。隣の準備室に通され、服を渡される。最初は私服に近いシンプルなシャツとガウチョパンツであった。西陽が閉められたカーテンの隙間から零れ落ちる部屋で1人、着替えを済ませる。
「着れたよ」
ドアを開けて顔を出すと、ガタンっと全員が全員作業の手を止めて立ち上がり、こちらを向いた。一斉に向けられた視線に、一瞬立ちすくむ。
「夕音、髪解いてもらっても良い?」
「え?良いけど…」
私は低い位置でサイドテールにしていた髪を解いた。稲穂色の髪が締め付けを失って、パラリと肩に零れる。
「じゃあこれ被って」
「帽子?」
渡されたのは、カンカン帽と呼ばれる麦わら帽子であった。服が薄手であることや寒色を主に使用していることから、初夏の雰囲気が漂う。
「凄い!綺麗です!」
「向日葵畑とか似合いそうです!」
「そのまま帽子を押さえていてください!写真撮ります!」
「えっ!?」
写真なんて聞いてない、と言う前にシャッターを切られてしまった。360度余すことなく細かく撮影される。千夏が写真を確認して頷くと、先程服を渡してきた子とは別の子が、私に服を差し出してきた。
「次はこれ、お願いします」
手に取ると、ふわふわのレースやフリルの重量感をたっぷりと感じる。これを着るのか、と視線で千夏に訴えたが、親指をぐっと立てられて見送られた。準備室で着替えると、持った時から感じていた通りロリータ系のワンピースだった。白とピンクを主に使用した、可愛らしさ満点のロリータファッションである。滅多に選ばない服装に違和感を覚えながらも、さっさと終わらせたいと千夏達の元へ戻った。次は大きなリボンカチューシャを頭に付けられ、手を後ろ目に気を付けした姿勢で写真を撮られる。足は交差する等の細かい指示があったが、果たしてこれは本当に簡易的なモデルなのだろうか。
「次はこれです。お願いします~」
間延びした口調の女の子に服を渡され、驚く。それは今まで試着した西洋風の服ではなく、完全に浴衣であったから。
「わっ、凄い」
思わずそんなことを呟きながら、次の服へと着替え始めた。
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