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2月15日 1つ目のヒント
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「羅樹が、同じ…?」
鹿宮くんの言葉を繰り返して、呆然とする。何を意図しているのか全然分からなくて思考を巡らせるが、考えれば考えるほど分からなくなっていく。何が同じなのか、それすらも分からない。私に教えてもらったと言っていたから、きっと鹿宮くんがちゃんと恋心に向き合った時のことだろう。アキレアの花が咲いて、まっすぐ前を向けるようになったあの日のこと。その時は確か、他人と自分の想いを比較するな、といった内容の話をした。鹿宮くんが明から身を引こうとした理由を聞いて、そんなの主観だって一掃して喝を入れた。
何処が同じだというのだろう。
最近考え込んでいた沢山のピースが浮かび上がる。
夕暮れの神社で泣き叫ぶ小さな羅樹。
私の名前を悲痛な声で呼ぶ羅樹。
私を引き止めるように抱き寄せる羅樹。
怒らない羅樹。
泣きそうになるくせに、離れようとする羅樹。
何だろう。もう少しなのに、あと少しだという感覚はあるのに記憶が蘇ることはない。
これはいつのこと?何故、私に記憶がない?
私の中に、閉じ込められた記憶がある?
「痛っ…」
チカチカと視界の端で何かが揺らめく。その頭痛の正体も、耳鳴りのように聞こえる声も、私は知っている。
今よりずっと幼い頃に何度も見て、聞いて、会って、話したもの。
そのことを話すと誰もが怯えたような表情をして、怖がるから。だからいつの間にか隠すようになったもの。
誰かに話すのはいつだって布団の上だった。だって、話してる時は何ともないのに、その後決まって体調を悪くしたから。
頭が痛くて、熱くて、視界が歪む。それは虹に呪われた時と似ていて、少し違う。
あれはヒトならざるモノ。
そんななにかと関わった時に、起こす体調の変化。ぐらぐらと一本橋の上に立たされているみたいに不安定で、コンクリートで固められたみたいにどちらにも傾けない苦しさ。
ヒトじゃない。
あちらのモノでもない。
認めたくなくて、気付きたくなくて。ずっと忘れていた。忘れたふりをしていた。
私が聞こえる音は、本当は音の先にいつも何かが見えていた。見えないふりをしていただけで、本当はその正体に気付いていた。
だって私と半分同じモノだから。
私はヒトとそれらの境界に座る者。稲森夕音は人であって、ヒトではない。どうしてこんな体質なのかは知らない。分からない。けれど幼い頃から、ヒトならざるモノと親交を持っていること自体は知っていた。
この記憶を閉じ込めたのは私なのだろう。羅樹の叫び声が脳内をこだまする。夕暮れに染まる神社の中で、何かと話す幼い私の声が聞こえて来る。押さえ付けていた記憶の蓋が開け放たれて、沢山の場面が次々と蘇っては霧散する。神々しいものから気味の悪い何かまで、私と言葉を交わしていく。
「…な、にが…」
「夕音!?」
自販機の前で、急に倒れた私を誰かが咄嗟に抱き留めてくれた。それが誰かを確認することも出来ないまま、私は頭を割らんばかりの勢いの痛みに目を瞑った。
鹿宮くんの言葉を繰り返して、呆然とする。何を意図しているのか全然分からなくて思考を巡らせるが、考えれば考えるほど分からなくなっていく。何が同じなのか、それすらも分からない。私に教えてもらったと言っていたから、きっと鹿宮くんがちゃんと恋心に向き合った時のことだろう。アキレアの花が咲いて、まっすぐ前を向けるようになったあの日のこと。その時は確か、他人と自分の想いを比較するな、といった内容の話をした。鹿宮くんが明から身を引こうとした理由を聞いて、そんなの主観だって一掃して喝を入れた。
何処が同じだというのだろう。
最近考え込んでいた沢山のピースが浮かび上がる。
夕暮れの神社で泣き叫ぶ小さな羅樹。
私の名前を悲痛な声で呼ぶ羅樹。
私を引き止めるように抱き寄せる羅樹。
怒らない羅樹。
泣きそうになるくせに、離れようとする羅樹。
何だろう。もう少しなのに、あと少しだという感覚はあるのに記憶が蘇ることはない。
これはいつのこと?何故、私に記憶がない?
私の中に、閉じ込められた記憶がある?
「痛っ…」
チカチカと視界の端で何かが揺らめく。その頭痛の正体も、耳鳴りのように聞こえる声も、私は知っている。
今よりずっと幼い頃に何度も見て、聞いて、会って、話したもの。
そのことを話すと誰もが怯えたような表情をして、怖がるから。だからいつの間にか隠すようになったもの。
誰かに話すのはいつだって布団の上だった。だって、話してる時は何ともないのに、その後決まって体調を悪くしたから。
頭が痛くて、熱くて、視界が歪む。それは虹に呪われた時と似ていて、少し違う。
あれはヒトならざるモノ。
そんななにかと関わった時に、起こす体調の変化。ぐらぐらと一本橋の上に立たされているみたいに不安定で、コンクリートで固められたみたいにどちらにも傾けない苦しさ。
ヒトじゃない。
あちらのモノでもない。
認めたくなくて、気付きたくなくて。ずっと忘れていた。忘れたふりをしていた。
私が聞こえる音は、本当は音の先にいつも何かが見えていた。見えないふりをしていただけで、本当はその正体に気付いていた。
だって私と半分同じモノだから。
私はヒトとそれらの境界に座る者。稲森夕音は人であって、ヒトではない。どうしてこんな体質なのかは知らない。分からない。けれど幼い頃から、ヒトならざるモノと親交を持っていること自体は知っていた。
この記憶を閉じ込めたのは私なのだろう。羅樹の叫び声が脳内をこだまする。夕暮れに染まる神社の中で、何かと話す幼い私の声が聞こえて来る。押さえ付けていた記憶の蓋が開け放たれて、沢山の場面が次々と蘇っては霧散する。神々しいものから気味の悪い何かまで、私と言葉を交わしていく。
「…な、にが…」
「夕音!?」
自販機の前で、急に倒れた私を誰かが咄嗟に抱き留めてくれた。それが誰かを確認することも出来ないまま、私は頭を割らんばかりの勢いの痛みに目を瞑った。
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