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1月1日 準備
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朝6時。私と扇様はほとんど同じタイミングで目を覚ました。繋いだ手は解けておらず、どちらからともなく笑みが溢れる。
「おはよう、夕音」
「おはようございます、扇様。そして、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます。何だか、ベッドの上で新年の挨拶って変な感じね」
「そうですね」
深夜の砕けた口調は幻だったかのように、いつも通りの敬語に戻す。扇様がそれについて何か言うこともなく、2人揃ってベッドから下りた。その瞬間、タイミングを見計らっていたかのように扉をノックする音が聞こえる。
「失礼します、扇様、夕音様。お食事の用意が出来ております」
「一緒にいただきましょ」
「はい、喜んで」
身なりを整えるよりも先に、運ばれてきた温かい食事に口を付ける。扇様のよく噛んでゆっくりと食べる姿は、まさにお嬢様といった雰囲気を感じさせた。
食べ終えるとすぐに隣の浴室へ連れて行かれ、また湯浴みをした。簡単に香が焚かれ、身清めを終えると次は髪を整える作業に移った。私は挨拶等人前に出るわけではないので、今日は準備中の扇様の側に居るだけでよく、代わりにメイド達と同様官服に似た衣服に袖を通した。側に居ても違和感が無いように、との采配らしい。薄く化粧も施された。昨日一昨日ほど着飾ってはいないので気が楽だったが、私の準備を手伝ってくれたメイドは「もう1度金の髪に玉飾りが映える姿を見たかったですわ」と憂い顔を見せたので、何だか申し訳ないような恥ずかしいような複雑な気持ちになった。
準備中に聞いたのだが、扇様の友人が来ると言うだけで喜ばしく張り切っていたのに、儀式用と遜色ない用に盛装させて良いという指示が来たため、いつも以上の力を発揮していたらしい。私は平民ですよ、と返したのだが「お嬢様が1度として夕音様を身分で割り切ることがありましたか」と返されてしまった。私が否定すると嬉しそうに笑った。
「私達は主人の鏡です。お嬢様が優しく正面から平等に接する相手に、私達が距離を取ることは御座いません。私達はお嬢様も、お嬢様が選んだお相手も、心の底から信用しております故」
その言葉に、扇様の耳が赤くなっているのが見えた。それを軽く揶揄うメイド達と、照れながらも嬉しそうな扇様。信頼関係が伺える温かな時間だった。扇様は挨拶用の豪奢な衣装に袖を通し、凛とした表情で前を向く。紅をさした唇や高い位置で結われた黒髪が扇様の美しさを引き出し、いつもより大人びて見えた。
「お嬢様、8時半で御座います」
「えぇ。お母様とお父様に挨拶に参りましょう」
顔つきが変わり、国家の主、その跡取りとしての威厳ある姿に、思わず見惚れてしまった。
「おはよう、夕音」
「おはようございます、扇様。そして、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます。何だか、ベッドの上で新年の挨拶って変な感じね」
「そうですね」
深夜の砕けた口調は幻だったかのように、いつも通りの敬語に戻す。扇様がそれについて何か言うこともなく、2人揃ってベッドから下りた。その瞬間、タイミングを見計らっていたかのように扉をノックする音が聞こえる。
「失礼します、扇様、夕音様。お食事の用意が出来ております」
「一緒にいただきましょ」
「はい、喜んで」
身なりを整えるよりも先に、運ばれてきた温かい食事に口を付ける。扇様のよく噛んでゆっくりと食べる姿は、まさにお嬢様といった雰囲気を感じさせた。
食べ終えるとすぐに隣の浴室へ連れて行かれ、また湯浴みをした。簡単に香が焚かれ、身清めを終えると次は髪を整える作業に移った。私は挨拶等人前に出るわけではないので、今日は準備中の扇様の側に居るだけでよく、代わりにメイド達と同様官服に似た衣服に袖を通した。側に居ても違和感が無いように、との采配らしい。薄く化粧も施された。昨日一昨日ほど着飾ってはいないので気が楽だったが、私の準備を手伝ってくれたメイドは「もう1度金の髪に玉飾りが映える姿を見たかったですわ」と憂い顔を見せたので、何だか申し訳ないような恥ずかしいような複雑な気持ちになった。
準備中に聞いたのだが、扇様の友人が来ると言うだけで喜ばしく張り切っていたのに、儀式用と遜色ない用に盛装させて良いという指示が来たため、いつも以上の力を発揮していたらしい。私は平民ですよ、と返したのだが「お嬢様が1度として夕音様を身分で割り切ることがありましたか」と返されてしまった。私が否定すると嬉しそうに笑った。
「私達は主人の鏡です。お嬢様が優しく正面から平等に接する相手に、私達が距離を取ることは御座いません。私達はお嬢様も、お嬢様が選んだお相手も、心の底から信用しております故」
その言葉に、扇様の耳が赤くなっているのが見えた。それを軽く揶揄うメイド達と、照れながらも嬉しそうな扇様。信頼関係が伺える温かな時間だった。扇様は挨拶用の豪奢な衣装に袖を通し、凛とした表情で前を向く。紅をさした唇や高い位置で結われた黒髪が扇様の美しさを引き出し、いつもより大人びて見えた。
「お嬢様、8時半で御座います」
「えぇ。お母様とお父様に挨拶に参りましょう」
顔つきが変わり、国家の主、その跡取りとしての威厳ある姿に、思わず見惚れてしまった。
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