神様自学

天ノ谷 霙

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12月31日 予定変更は悪戯と共に

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せん様のお母様は、じっと扇様を見つめた後でパチンと扇子を閉じた。2人の同じ色をした瞳が強い光を持って交わされる。やがてお母様はゆっくりと頬を緩めて、柔らかな笑みを浮かべた。
「扇、お前は、周りの人に恵まれましたね」
年齢に見合わぬ美貌で微笑み、私の目が奪われた。気を張っていなければ見惚れてしまい、話が耳に入ってこないだろう。そんな国母が目を細める。
「使用人も、友人も、そしてこん様も。皆良き方々です。それはきっと、扇の優しさが惹きつけたものなのでしょうね」
お母様は満足そうに頷くと、背後に立っていた付き人に耳打ちする。付き人は承諾の意を伝えると、音もなく部屋から出て行った。
「儀式は中止、いや金輪際催すことはないでしょう。そして代わりに、貴方達の正式な婚約発表でもしましょうか」
「「えっ!?」」
扇様と私が思わず声を出してしまう。紺様も驚いたようで、声を出しはしなかったものの動揺したような表情を浮かべている。お母様は先程までの美しい笑みはそのままに、子供のような悪戯っぽい顔をした。
「年明けと共に、次代が育っていることを世間に伝えましょう。儀式は澪愛みおう家にしか関係のないことだけど、年明けまで何もしないというのもね。めでたい日に告げるにはちょうど良くてよ?」
「お、お母様…っ」
「それに、わたくしもちょっと、怒ってますのよ」
にっこりと、それでいて凄みを感じる笑顔で扇子をパチンと鳴らす。
「大事な娘を、一時の感情で罵った彼女達に目に物を見せたって、バチは当たらないと思わない?」
悪戯っぽく目配せと舌を出す仕草を伴い、小さく呟くお母様。子供っぽい筈のその行為に艶やかさが乗り、違和感を感じさせないのは彼女だからこそだろう。
「準備はもう始まっているわ。さぁ、明日の10時までに全て整えるわよ」
隣に座る扇様は、「この状態のお母様には何言っても無駄だ…」と小さく呟いて、覚悟を決めたようだった。
「扇と紺様は晴れ着に着替えておいでなさい。夕音さんは私と一緒に来てくれるかしら」
「えっ、は、はいっ」
急な指示に、私は慌てて返事をする。扇様と紺様は心配そうな顔を浮かべていたがどうすることも出来ず、準備の為にと別の部屋に連れて行かれた。私は戸惑いながらも、立ち上がったお母様の後ろをついて行く事にする。付き人も誰もいないまま、彼女はするすると廊下を進んでいく。その凛とした横顔は扇様の面影を感じさせて、何だか微笑ましさを感じた。
そして、連れて来られたのは見覚えのある別館であった。
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