神様自学

天ノ谷 霙

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晴迎え

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国に温かな雨が降り注ぐと、白と灰の龍は月の目の前で混ざり合うようにして姿を変えた。金色こんじきに光る1頭の龍となり、月の光を反射してキラキラと輝いている。その輝きに呼応するように呼び出された雲が霧散し、隠されていた星が1つ、また1つと姿を現した。その瞬間、ただの暗闇にしか見えなかった夜空が本来の色を取り戻し、紫や青、紺、白、緑、橙、赤などのさまざまな色が混ざり合い瞬き合う。筆舌に尽くしがたい程に美しく自然の神秘を伝えるその情景に、私は息を飲んだ。幻想的に煌く十六夜の月にいざなわれる。妖艶な龍に手招きされているかのような、ひとときの夢にも似た美しさを感じた。
天は晴れを迎える。
やがて金色の龍は月の中に消えてしまった。それと同時にせん様が倒れ込み、どたんと大きな音を鳴らした。
「扇様!」
私は慌てて抱き起こすが、扇様は疲れ切ったようですぐにでも眠ってしまいそうだった。それもその筈だ。この世の者ではなくなった者を表象に浮かび上がらせながら、何百年も前から行われていなかった儀式を完遂したのだから。
私は扇様の頭を自分の膝の上に乗せ、扇様が休みやすい姿勢を取った。その体の冷たさとポタリと床に溢れた血を見て硬直する。美しさへの余韻は消え失せ、今どうすべきかを考えるために必死に思考を動かした。葉の形に擦られた痕が視界に入る。花を守るように広がる鋭利は葉には見覚えが無かった。しかしこん様はあれを国花の葉だと言った。それで傷付けられた澪愛みおうの女の肌は熱を帯び、血を流し続ける。なら止血はどうするのだろう。国の花と澪愛の女は、どこまで結び付いているのだろう。
賭け、だった。
私は眠りについた扇様の目元を左手で覆い、右手をゆっくりと地面と垂直に振り上げた。扇様に触れぬよう指先まで気を付けながらくうを裂く。裂け目を中心に、強き風が吹き荒ぶ。国を想う少女たちの心に反応し、舞い上がる花びら。紺青の空に映える白く淡く儚い花。私はその花弁を1つ手に取り、扇様の腕に押し付けた。親指で軽く押すと、金混じりのオレンジ色の光を放ち、とろりとした花蜜が溢れた。それを何度か繰り返すと、血の流れは止まり扇様の体にも温もりが戻ってくる。落ち着いた呼吸音にホッと胸を撫で下ろし、賭けに勝利したことを喜ぶ。
「桜の花言葉は、精神美や高尚。国を想い守ろうと命を賭した少女たちを、称え敬う優しい花」
無意識に紡がれた言の葉に、私は小さく笑うのだった。
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