神様自学

天ノ谷 霙

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1月8日 考え無し

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「…ん」
小さな声が聞こえて、羅樹が起きたことを知る。ゆっくりと体を起こして寝ぼけ眼を擦る羅樹に、思わず頬が緩む。
「おはよう、羅樹」
「おはよう。僕、寝ちゃってた?」
「うん。といってもそんなに経ってないよ」
安堵したようにため息をつく羅樹の目の下には、変わらず隈がある。いつも健康体で、病欠なんてほとんど起こさない羅樹の弱った姿に、戸惑いを覚える。困ったような表情で羅樹を見つめると、気を抜くようにふにゃっと笑った。
「羅樹?」
「…良かった」
小さく呟かれた声。酷く安堵した心が伝わって来て、私は罪悪感に苛まれる。
「ごめんね、心配掛けて」
「ううん、大丈夫だよ。またこうやって起きてくれたから」
「…羅樹」
微笑まれて、私はぎゅうっと胸が締め付けられる。体から力が抜けて、そっと羅樹の肩に額を預けた。
「ありがとう」
それに、もう一つごめん。
これは言葉には出さなかったけれど。私はせん様を庇って刺されたこと、後悔していない。1週間も眠り続けて、たくさん周りの人に迷惑を掛けたけれど、羅樹があんなに狼狽えるくらい心配を掛けたけれど、それでもあの場で彼女の敵意に気付いて、それを止められるのは私しかいなかった。会場には使用人の姿はなかった。良家の当主や子息令嬢のみが互いの腹を探り合う社交会。私のような存在は例外で、普通だったらあり得ない。だからこそ、私しか気付けなかった。もしかしたら使用人がいたとしても気付けなかったかもしれない。心の音が聞こえる私だからこそ、"恋使"の力を持つ私だからこそ、彼女の敵意をいち早く知ることが出来たのかもしれない。そうでなければ扇様が危なかった。かねてより想い合っていた2人。私は扇様の恋心にばかり気を取られていたけれど、きちんと想いを返し合ってこの度心から結ばれた扇様とこん様。そんな2人の幸せを邪魔したくなんてなかった。邪魔されたくなんてなかった。私を信じてくれた2人を、私を友人だと認めてくれた2人の幸せを、守りたかった。
「夕音?」
気付いたら涙が溢れていた。見られたくなくて、羅樹の肩に顔を埋める。
本当は、何も考えていなかった。気付いたら体が動いていただけ。後悔していないという思いは、後付けの理由ばかり。
今更ながら傷口が熱を帯び、痛みを訴える。怖く無かったんじゃない、気付いていなかったんだ。もう2度と羅樹に会えない可能性を。言葉を交わせない可能性を。考える前に動いてしまったんだ。
最近私は自分の命を軽んじている気がする。流石に反省しようと、羅樹の涙を思い出しながら痛感したのだった。
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