453 / 812
伝統を断ち切るために
しおりを挟む
私の呼び掛けに応じ、扇様の奥底から目を覚ました奥方様は静かに頷いた。
「澪愛の始まり、いや、澪愛の特別性の始まりと言うべきでしょうか。貴方の力は正しく伝わっておりません。熱に弱いこと、その血の流れ方、それだけが特別性を示す証となっています。その示し方は、澪愛の女を苦しめる悪しき伝統を生み出しました。それを断ち切るために貴方をお呼びしました」
私の言葉に、奥方様は一瞬視線を外した後、真剣な目をした。
「伝統とは、何ぞ」
「澪愛の女に国花の葉で傷を付け、流れる血を集めるというものです。毎年、年越し前に行う儀式だそうで」
「国花の…あぁ、傷口が熱を持つアレか。なるほど」
「はい。そのために半日血を流し続けます」
「…! そんなに長く?いや、妾の血が流れていれば可能か」
「えぇ。そのように聞いております」
「確かに、悪用されているようなものだな。妾の時代から一体何人の女が苦しんだのだろうか」
「わかりません。だから、これ以上苦しむ者が増えぬよう止めたいのです」
私がまっすぐに奥方様を見つめると、奥方様は怪訝そうな顔をした。
「一つ聞く。お主は、どうして伝統を知り、止めたいと考える?今の澪愛の女と、何の関係があるのだ?」
奥方様の質問に、記憶が蘇る。先程脳裏に刻まれた、凛とした少女の声。自信を持って答えられる。
「私は扇様の友人です。友人が苦しむ姿は見たくありません」
私の答えに、奥方様は目を見開いた。予想外だったようで、目を伏せた後小さく呟く。
「…今は、国主の娘という立場でも友人を持てるのか」
それは羨ましそうな声音で。唇が寂しそうに噤まれた。
「妾の覚えている限りなら教えられるが、生憎自身の"特別性"がどこからか分からぬ」
「なら、貴方の記憶を辿らせてください」
私は奥方様の側に寄り、額を合わせた。私と奥方様を中心に魔法陣が展開される。赤みがかった金色にオレンジ色や淡い桃色が混ざっている。
『繋げ 紡げ お前の 最奥の 記憶』
言霊が紡がれる。空気に溶け、時空に溶け、空間を歪ませる。座っていてもバランスを崩してしまいそうな程の強風が吹き荒ぶ。風によって私と奥方様、いや扇様の水引が解けた。光る床の紋様。溢れる記憶のピース。その全てが私の瞳に、脳に、奥に記録として刻まれていく。空間のうねりを感じ、そっと目を閉じた。
次に目を覚ました時、目の前には何度も見た光景が広がっていた。正確にはその光景が燃える前。古い町並みが広がる一国の城の姿。扇様、深沙ちゃん、青海川くん、紺様の誰の記憶にも残っていた光景。大火災が起こる前の平和な姿がそこにはあった。
「澪愛の始まり、いや、澪愛の特別性の始まりと言うべきでしょうか。貴方の力は正しく伝わっておりません。熱に弱いこと、その血の流れ方、それだけが特別性を示す証となっています。その示し方は、澪愛の女を苦しめる悪しき伝統を生み出しました。それを断ち切るために貴方をお呼びしました」
私の言葉に、奥方様は一瞬視線を外した後、真剣な目をした。
「伝統とは、何ぞ」
「澪愛の女に国花の葉で傷を付け、流れる血を集めるというものです。毎年、年越し前に行う儀式だそうで」
「国花の…あぁ、傷口が熱を持つアレか。なるほど」
「はい。そのために半日血を流し続けます」
「…! そんなに長く?いや、妾の血が流れていれば可能か」
「えぇ。そのように聞いております」
「確かに、悪用されているようなものだな。妾の時代から一体何人の女が苦しんだのだろうか」
「わかりません。だから、これ以上苦しむ者が増えぬよう止めたいのです」
私がまっすぐに奥方様を見つめると、奥方様は怪訝そうな顔をした。
「一つ聞く。お主は、どうして伝統を知り、止めたいと考える?今の澪愛の女と、何の関係があるのだ?」
奥方様の質問に、記憶が蘇る。先程脳裏に刻まれた、凛とした少女の声。自信を持って答えられる。
「私は扇様の友人です。友人が苦しむ姿は見たくありません」
私の答えに、奥方様は目を見開いた。予想外だったようで、目を伏せた後小さく呟く。
「…今は、国主の娘という立場でも友人を持てるのか」
それは羨ましそうな声音で。唇が寂しそうに噤まれた。
「妾の覚えている限りなら教えられるが、生憎自身の"特別性"がどこからか分からぬ」
「なら、貴方の記憶を辿らせてください」
私は奥方様の側に寄り、額を合わせた。私と奥方様を中心に魔法陣が展開される。赤みがかった金色にオレンジ色や淡い桃色が混ざっている。
『繋げ 紡げ お前の 最奥の 記憶』
言霊が紡がれる。空気に溶け、時空に溶け、空間を歪ませる。座っていてもバランスを崩してしまいそうな程の強風が吹き荒ぶ。風によって私と奥方様、いや扇様の水引が解けた。光る床の紋様。溢れる記憶のピース。その全てが私の瞳に、脳に、奥に記録として刻まれていく。空間のうねりを感じ、そっと目を閉じた。
次に目を覚ました時、目の前には何度も見た光景が広がっていた。正確にはその光景が燃える前。古い町並みが広がる一国の城の姿。扇様、深沙ちゃん、青海川くん、紺様の誰の記憶にも残っていた光景。大火災が起こる前の平和な姿がそこにはあった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる