神様自学

天ノ谷 霙

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12月30日 家名

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せん様の隣に常に立っているように指示されたが、扇様は挨拶回りに忙しい。隣にいれば白羽の矢が立つのは当たり前で、私に好機の目を向けて来る者は少なくなかった。
澪愛みおう様の令嬢のご友人?一体何処でお会いしたのですか」
「澪愛様の娘とは普段どんな会話を?」
澪愛というのは扇様の家名である。確かに有名でわかりやすいが、それにしても家柄で名前すら呼ばないとは一体どういうつもりだろう。本人に興味がないと公言しているようなものではないか。愛想笑いを浮かべ、曖昧に誤魔化す。その態度が気に入らないのか興味が薄れたのか、霧散する有象無象。しかしその中でも突っかかってくる者はいるもので、恐らく遠回しの皮肉なのだろうが、勝ち誇った顔で貧困な語彙力を弄ぶ面倒な者に絡まれてしまった。
「澪愛様のご友人ということはさぞかし素晴らしい能力があるのでしょう。是非我々にも教えていただきたい」
「そんなことはありません」
「またまたご謙遜を。我々は貴方に興味があるのです。少々お話ししましょう」
我々と言っている時点で、自分1人じゃ動くことも出来ない無能ですって言っているようなものじゃない。言葉の合間に溢れる扇様や周囲への憎しみ、卑下を感じ取ってしまい、嫌悪すら感じる。こんな苦しい社会で生きていかねばならないなど、高貴なお方は面倒なことこの上ないだろう。笑顔を貼り付けてのらりくらりと躱していると、私と彼らの間に割り込む背の高い影。
「こんにちは、夕音様。貴女も招待されていたとは。扇様との関係が良好のようで、私も嬉しいです」
深海のような深い青の髪をオールバックにし、高貴な雰囲気を纏った男性だった。見覚えのある顔に、ハッとする。
こん様!?」
「おや、名前を覚えていてくれたとはとても嬉しい」
朗らかな笑顔を浮かべる紺様は、わざと視界に彼らを入れないようにしているようだった。紺様は扇様の婚約者候補である。つまるところ次の統治者候補であり、その威光を羨ましがる者は絶えない。軽い中傷にいちいち構っていてはキリがないのだ。私に絡むような小物なら尚更、相手にならない。小物たちはあからさまに顔色を変え、紺様とも知り合いだと分かると擦り寄るような仕草を見せた。
鳳凰ほうおう家の御子息とも顔見知りだとは、やはり先程の言葉はご謙遜だったようですね」
「えぇ、素晴らしいお方なのでしょう。是非ともご一緒させていただきたい」
取り繕った言葉が耳障りで、気味が悪い。紺様ですら家名で呼ぶのか。損得勘定でしか他人を見られない、周りを道具としか思っていない奴らばかりではないか。
「夕音様、喉は渇いていませんか。あちらのものなら飲みやすいかと思いますが」
「あ、はい。そうですね、いただいて参ります」
紺様は私を助け出してくれたらしい。一瞬だけ顔を見ると、目配せをされた。普通のご令嬢なら倒れていただろう。私は申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいで、そんな余裕はなかったが。そうして、色取り取りの飲料がカクテルグラスに入ったテーブルの前に来た。この辺りはアルコールも入っていないらしい。私と同じ歳くらいの令嬢や子息が次々と手に持って行ったのを見て、確信する。
空色に心惹かれ、手に取る。口に含むと爽やかで甘い味が舌の上で転がった。
羅樹は今、どうしてるだろうか。
優しく笑う瞳を思い出し、つい感傷に浸ってしまった。
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