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SOS信号
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1年生の、冬のある日のことだった。クラスメイトの千夏が噂の中心になっている時期だった。誹謗中傷の混ざった噂話は、悪意なき忌避も呼び起こす。無意識下で避ける者もいた。千夏は段々と、顔を上げなくなっていた。俯きがちに1人で歩く姿は痛々しく、話しかけようとするとあちらから避けてしまう。恐らく、迷惑をかけると恐怖しての行動。素直に人を頼るのが苦手な、少しいじっぱりで裏切られるのを恐れる彼女の、精一杯の自衛だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。心の音が、いつも苦しそうだったから。
そんな彼女が授業に出なかったことがあった。嫌な予感が背筋を走る。見つけ出さなきゃ、何か取り返しのつかないことが起こる気がする。慌てた私は、授業終了と同時に教室を出て、音を頼りに探し始めた。泣いてるはず、雨の音がするはず。うっすらと青空が覗く空からではなく、彼女の心には雨音が響いているはずだと妙な確信があった。そしてそれは的中した。空き教室を探そうと廊下を走っていたとき、窓からふと見えた体育倉庫から微かな音が聞こえた。さっきの時間は体育が無かった。連続で体育がない珍しい時間。そんなのもう、ほとんど答えだろう。
私は踵を返して昇降口に向かい、体育倉庫に向けて走った。スカートが風を受けて翻る。整備が足りない道が凸凹していて走りづらい。けれど、そんなこと気にしている暇なんてない。鍵の掛かっていなかった体育倉庫を開け、光を多く取り入れる。入り口から死角の隅に、小さく蹲る千夏を見つけた。
「ちーかーちゃん?」
私の声に肩を震わせ、こちらを見ないように顔を上げる千夏。雨の気配が強くなる。千夏は嗚咽を漏らし、苦しそうに悪態をついた。
「私になんて興味無いでしょ、関わらないでよ…」
それは自分を傷付けるための言葉であるように思えた。何て言おうか迷ったけれど、千夏の目を真っ直ぐ見たら自然と言葉が浮かんできた。
「大丈夫。それでも貴方を見つけ出す」
私の言葉に、目を丸くする千夏。私は笑顔を見せて、強く腕を引っ張った。こんな暗いところじゃない、千夏を想う皆がいる光の中へ連れて行きたかった。噂は噂、千夏という本人を見てくれる友人たちの声が聞こえて来る。
「さ、行こう!千夏ちゃん」
千夏は何かが切れたように大きな声を上げて泣き始めた。私の腕にしがみつくようにして正面から抱き締める。そこはもう、体育倉庫の中では無かった。あとから追いついた花火や利羽、小野くんに雪くん、霙と明が私達を囲む。私から少し離れた千夏の頭を撫でたり抱き締めたりと、千夏を想う行動が見て取れた。
「どうしたの千夏!?」
「何してるのー?」
「し、心配かけんなよな!?俺はしてないけど!!」
「海斗…正直に言えよ」
「千夏を傷付けたのは誰だ!私か!?」
「何言ってるの霙」
その言葉には温かさが滲んでいて、とても心地良いものだった。千夏の雨も、ゆっくりと晴れていく。千夏は少しだけ広角を上げて、涙を浮かべたまま笑った。
「やべっ、次の授業まで時間無いぞ!?」
「急ぐわよ!」
「皆で遅れたらどうなるんだろう」
「大丈夫大丈夫!何とかなるってー!」
皆が再度走り出したので、私も後に続いて走ろうとした時だった。千夏が私の手を握って、小さな声で呟いた。
「私も皆を見つけられるかな」
千夏が1歩進めたみたいで嬉しくて、私は満面の笑みで告げた。
「うん!できるよ!」
その言葉に、千夏は本当に嬉しそうに笑った。
そんな彼女が授業に出なかったことがあった。嫌な予感が背筋を走る。見つけ出さなきゃ、何か取り返しのつかないことが起こる気がする。慌てた私は、授業終了と同時に教室を出て、音を頼りに探し始めた。泣いてるはず、雨の音がするはず。うっすらと青空が覗く空からではなく、彼女の心には雨音が響いているはずだと妙な確信があった。そしてそれは的中した。空き教室を探そうと廊下を走っていたとき、窓からふと見えた体育倉庫から微かな音が聞こえた。さっきの時間は体育が無かった。連続で体育がない珍しい時間。そんなのもう、ほとんど答えだろう。
私は踵を返して昇降口に向かい、体育倉庫に向けて走った。スカートが風を受けて翻る。整備が足りない道が凸凹していて走りづらい。けれど、そんなこと気にしている暇なんてない。鍵の掛かっていなかった体育倉庫を開け、光を多く取り入れる。入り口から死角の隅に、小さく蹲る千夏を見つけた。
「ちーかーちゃん?」
私の声に肩を震わせ、こちらを見ないように顔を上げる千夏。雨の気配が強くなる。千夏は嗚咽を漏らし、苦しそうに悪態をついた。
「私になんて興味無いでしょ、関わらないでよ…」
それは自分を傷付けるための言葉であるように思えた。何て言おうか迷ったけれど、千夏の目を真っ直ぐ見たら自然と言葉が浮かんできた。
「大丈夫。それでも貴方を見つけ出す」
私の言葉に、目を丸くする千夏。私は笑顔を見せて、強く腕を引っ張った。こんな暗いところじゃない、千夏を想う皆がいる光の中へ連れて行きたかった。噂は噂、千夏という本人を見てくれる友人たちの声が聞こえて来る。
「さ、行こう!千夏ちゃん」
千夏は何かが切れたように大きな声を上げて泣き始めた。私の腕にしがみつくようにして正面から抱き締める。そこはもう、体育倉庫の中では無かった。あとから追いついた花火や利羽、小野くんに雪くん、霙と明が私達を囲む。私から少し離れた千夏の頭を撫でたり抱き締めたりと、千夏を想う行動が見て取れた。
「どうしたの千夏!?」
「何してるのー?」
「し、心配かけんなよな!?俺はしてないけど!!」
「海斗…正直に言えよ」
「千夏を傷付けたのは誰だ!私か!?」
「何言ってるの霙」
その言葉には温かさが滲んでいて、とても心地良いものだった。千夏の雨も、ゆっくりと晴れていく。千夏は少しだけ広角を上げて、涙を浮かべたまま笑った。
「やべっ、次の授業まで時間無いぞ!?」
「急ぐわよ!」
「皆で遅れたらどうなるんだろう」
「大丈夫大丈夫!何とかなるってー!」
皆が再度走り出したので、私も後に続いて走ろうとした時だった。千夏が私の手を握って、小さな声で呟いた。
「私も皆を見つけられるかな」
千夏が1歩進めたみたいで嬉しくて、私は満面の笑みで告げた。
「うん!できるよ!」
その言葉に、千夏は本当に嬉しそうに笑った。
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