神様自学

天ノ谷 霙

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12月27日 練習開始

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深沙ちゃんに指示を仰ぎながら、明と共に給水の準備を行う。ウォータージャグに予め用意されていたスポーツドリンクを注ぎ、紙コップを付属したカップディスペンサーに入れた。1年生2人は記録用紙とペンを準備し、もう片手にはストップウォッチを持っている。八千奈は慣れからかサクサクと様々な仕事をこなしていた。
「終わったか?ならこっちを手伝ってくれ!」
「はい!」
陸上部の顧問であり、私のクラスの現代文を担当している先生に呼ばれる。バトンゾーンを示すマーカーコーンの設置を頼まれた。
「稲森、それはもう2歩奥で…明はそこっす!」
鹿宮くんが遠くから大声で指示をしてくれるので、とても分かりやすかった。多少のズレを修正すると、先生からもOKサインを貰えた。
「夕音ちゃん、明ちゃん、こっち来てー!」
「はーい!」
普段の様子からは想像も出来ないような大きな声で、深沙ちゃんに呼ばれた。何となく気合が入って、小走りで向かう。記録用紙とペンが渡された。深沙ちゃんは1年生2人を見てハキハキと指示を出す。
「2人は今日、短距離と長距離とハードルを担当して。先生も今日そっち重視で見るから」
「「はい!」」
「八千奈ちゃんも同じ。タイム測定慣れてるよね?」
「大丈夫やでー」
「明ちゃんは三段跳びと走り幅跳びね。砂場のとこ。深沙もそっち行くから」
「うん、了解」
「夕音ちゃんは走り高跳び。浅野くんがいるから、何かあったらそっちに聞いてね」
「わかった」
言われた通り、校庭の真ん中の辺りに準備されている場所へ向かう。私に気付いた浅野くんが、ふっと笑った。
「稲森が記録してくれるのか?」
「うん。わからないところがあったら教えてね」
「おー。なるべくカバー出来るようににするわ。ハイジャンプの奴らは騒がしい奴が多いから気を付けろよ」
「え?う、うん?」
「あー!浅野先輩が笑ってるー!」
「その人が彼女ですかー!?前に彼女が出来たって言ってましたよねー!?」
「…ほら、こういう奴らだ」
「あー、大体分かった」
浅野くんは騒ぎ出した後輩の頭を軽くチョップした。大袈裟なリアクションにため息を吐いて、訂正してくれる。
「違ぇ、ただのクラスメイトだ」
「本当ですかー?」
「あの鬼の浅野先輩が笑ったのにですか??」
「あぁ?」
「「すみませんでしたー!!」
まるでコントのように流れる会話に、思わず笑ってしまう。その様子に気付いた女の子が、私の側ににやけ顔で寄ってきた。
「隠さなくていいんですよ。えーっと稲森先輩、浅野先輩を宜しくお願いしま…っ痛!」
浅野くんが女の子の頭をペシっと叩いたらしい。女の子は頭を押さえて浅野くんに驚いた顔を向けた。
「違ぇっつってんだろ!」
「そうだよ。浅野くんの彼女さんは吹奏楽部だもの」
「稲森!!」
浅野くんの耳が赤く染まり、後輩達の瞳がキラキラと輝く。どうやら、その辺りの情報は全く開示していなかったらしい。私が詰め寄られる前に、浅野くんが怒号にも似た大きな声で号令をかけた。
「練習始めんぞ!」
その声にビクッと肩を震わせて、皆顔付きを変える。スイッチが入ったらしい。私も切り替え、バーの近くに立った。
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