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12月25日 デートの終わり
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19時前、私達は電車に乗った。楽しかったと笑う羅樹が可愛らしくて、私もつられて笑う。隣同士に立ちながら小声で話していると、あっという間に乗り換えの駅だ。羅樹の裾を引っ張って誘導し、少しずつ見慣れた場所へと近付いていく。乗り換えの駅ではしばらくしたら電車が入って来て、運の良いことに2人並んで座ることが出来た。肩が触れる程の近い距離に、思い人がいる。それだけで鼓動は早くなるし、顔も熱を帯びる。そういえば羅樹と2人きりで夜まで出掛けるのは初めてだったかもしれない。
そんなことを考えていると、羅樹が大きなあくびをした。
「眠いなら寝てもいいよ。着いたら起こすから」
「でも…」
「私、朝には弱いけど夜には強いのよ?だから安心して寝なさい」
「…ありがとう」
そう言って羅樹は静かに目を閉じ、少しだけ私の方に首を傾けた。肩に羅樹の頭が乗っているような、そんな気がしている。いや、実際に乗っている。こんなに近付いた記憶がほとんどないので、私は内心パニック状態だった。
「…いなくならないでね」
羅樹の微かな呟きは、すっかり慌ててしまった私の耳に届くことは無かった。
羅樹が眠りに付いてから何駅が過ぎただろう。肩に全神経が集中してしまっていたのでよく覚えていないが、ふと最寄駅の名前が聞こえて来た。羅樹をそっと揺すって起こし、降りる準備を促す。デート、私だけが一方的に思っているだけかもしれないが、その終わりが刻一刻と迫っていた。羅樹はううんっと小さく唸りながら体を起こし、窓の外をぼんやりと眺めていた。瞬きを数回すると完全に意識が覚醒したようで、すっかりいつも通りだ。寝起きに強いとは、何とも羨ましい性質だ。私にも半分くらいその強さを分けて欲しい。
電車から降りると、外はすっかり暗闇に包まれていた。遠くに見える月が、鮮やかでとても綺麗だ。見慣れた駅のホームが、いつもと少し違って見える。羅樹が隣にいて、夜で、2人きりだからだろうか。他の乗客だっているのに、それは変わらないのにどうしてか違って見える。今日があまりにも楽し過ぎたせいだろうか。
「夕音?」
「え、な、何?」
心配そうにこちらを見る羅樹に慌てて返事をする。羅樹は戸惑った顔を浮かべていたが、私の声に安堵したように笑顔を浮かべた。
「お父さん、もう帰って来てるかな。今日のこと、いっぱい話したいな」
「そうだねー、そろそろ帰って来るんじゃない?きっとお父さんも、楽しみにしてるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
そんな会話を交わしながら、帰り道を肩を並べて歩く。玄関の明かりが付いた2軒の家が見えた。楽しい時はあっという間。そんなことを実感させられる。
「今日はありがとう、夕音」
「こちらこそ、楽しかったね」
「うん、また行けるといいね!」
「…そうだね、また」
今度は、幼馴染みではなく恋人として。
何て、告白する勇気もまだ持ててないくせに、口の中で呟くのだった。
そんなことを考えていると、羅樹が大きなあくびをした。
「眠いなら寝てもいいよ。着いたら起こすから」
「でも…」
「私、朝には弱いけど夜には強いのよ?だから安心して寝なさい」
「…ありがとう」
そう言って羅樹は静かに目を閉じ、少しだけ私の方に首を傾けた。肩に羅樹の頭が乗っているような、そんな気がしている。いや、実際に乗っている。こんなに近付いた記憶がほとんどないので、私は内心パニック状態だった。
「…いなくならないでね」
羅樹の微かな呟きは、すっかり慌ててしまった私の耳に届くことは無かった。
羅樹が眠りに付いてから何駅が過ぎただろう。肩に全神経が集中してしまっていたのでよく覚えていないが、ふと最寄駅の名前が聞こえて来た。羅樹をそっと揺すって起こし、降りる準備を促す。デート、私だけが一方的に思っているだけかもしれないが、その終わりが刻一刻と迫っていた。羅樹はううんっと小さく唸りながら体を起こし、窓の外をぼんやりと眺めていた。瞬きを数回すると完全に意識が覚醒したようで、すっかりいつも通りだ。寝起きに強いとは、何とも羨ましい性質だ。私にも半分くらいその強さを分けて欲しい。
電車から降りると、外はすっかり暗闇に包まれていた。遠くに見える月が、鮮やかでとても綺麗だ。見慣れた駅のホームが、いつもと少し違って見える。羅樹が隣にいて、夜で、2人きりだからだろうか。他の乗客だっているのに、それは変わらないのにどうしてか違って見える。今日があまりにも楽し過ぎたせいだろうか。
「夕音?」
「え、な、何?」
心配そうにこちらを見る羅樹に慌てて返事をする。羅樹は戸惑った顔を浮かべていたが、私の声に安堵したように笑顔を浮かべた。
「お父さん、もう帰って来てるかな。今日のこと、いっぱい話したいな」
「そうだねー、そろそろ帰って来るんじゃない?きっとお父さんも、楽しみにしてるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
そんな会話を交わしながら、帰り道を肩を並べて歩く。玄関の明かりが付いた2軒の家が見えた。楽しい時はあっという間。そんなことを実感させられる。
「今日はありがとう、夕音」
「こちらこそ、楽しかったね」
「うん、また行けるといいね!」
「…そうだね、また」
今度は、幼馴染みではなく恋人として。
何て、告白する勇気もまだ持ててないくせに、口の中で呟くのだった。
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