神様自学

天ノ谷 霙

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12月25日 夕方

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気付いたら順番が回ってきていた。後ろの方に羅樹と並んで座る。アナウンスの声が響いて、これから始まる短い旅にわくわくする。隣を見ると、羅樹も楽しそうにしていた。ガタンッと小さな揺れが起こり、ゆっくりと動いていく。坂を登り、カタカタと音が聞こえてくる。視界に映る青空がとても綺麗だった。ぼんやりと眺めていると、前方から叫び声が聞こえてきた。同時に私の体も急降下していく。このスリルと非日常感が堪らない。普段じゃ絶対に味わえない感覚に、胸の高まりが止まらない。
「きゃぁぁぁぁぁあ!!」
「わぁぁぁぁあああ!」
乗客の叫び声に合わせて、私も羅樹も声を上げる。気分がスカッとするため、叫んだ方が楽しいと思う。やがて落下は落ち着き、また登っていく。何度も上昇と下降を繰り返し、時にはぐるっと回ったりしてワクワクが止まらなかった。名残惜しさを残しながら羅樹と共に降り、空を見上げる。若干暗くなってきており、次で最後のアトラクションにしようと話した。「遊園地の最後といえば観覧車でしょ」という私の主張に従い、観覧車の列に並ぶ。冬らしく早い時間帯から暮れていく空が、オレンジから青、紫へとグラデーションを作っているのがとても綺麗だった。
「お次のお客様、どうぞ~」
係員のお姉さんに誘導され、向かいに座る。ドアが閉まり、ゆっくりと上昇していく。先程までいた地面がみるみる遠くなっていくのが見えて、少しだけワクワクした。そして、上昇していく途中で羅樹を見た時、初めて2人きりで密室にいるという事実に気付いた。恋する乙女としてあるまじき自覚の遅さだが、その羅樹は景色を瞳に写し喜んでいるので、仕方ないだろう。女の子わたしと2人きりなど、気にするような羅樹じゃない。
「凄いね。見て見て、遠くに海が見えるよ」
羅樹がガラスに向けて指をさすので、私もその方向を見る。地平線で空と海の色が混じり合い、とても美しかった。
「本当だ。夕焼けが混ざって綺麗だね」
「僕、夕方が一番好き」
そう呟いた羅樹の水色の瞳には、夕焼けが映っていて。今見ていた景色と似たような色を宿している。心臓がうるさくなってきたので、そっと目を逸らして再度外を見た。
「私も好き。綺麗だよね」
「うん。本当…凄い綺麗だよね」
しみじみと落ち着いたトーンで呟く声が、羅樹らしくない気がした。振り向くと羅樹は何故か私の方を見ていて、顔に熱が集中するのがわかった。
「…羅樹?」
私の呼びかけに、優しく微笑む。脈が大きく跳ねる。耐えられない。そう思った時だった。ガコンッと大きな音を立てて、地面に着いたことを知る。
「お疲れ様でした~」
行きと同じお姉さんに案内され、力の入らない足で外へ出る。羅樹の方を向くと、そこには先程までの大人っぽさは消えていて、いつものふにゃっと笑う羅樹がいるだけだった。安堵とちょっぴり残念を混ぜて、私は微笑む。
「それじゃ、チケットの醍醐味?ディナーに行こうか」
「うん!」
羅樹のお父さんが取ったチケットには、遊園地近くのレストランのディナー券も付属していた。今日の目的はそちらでもあるのだ。私は羅樹と並んで、レストランに向けて歩き出した。
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