神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
434 / 812

12月25日 もう一箇所だけ

しおりを挟む
現在時刻は18時過ぎ。乗り換えのタイミングによっては1時間半程かかるので、そろそろ電車に乗らなければ遅くなってしまう。
「羅樹」
そのことを告げようと振り向くと、羅樹も何か考えごとをしているような様子だった。横顔が街灯に照らされて、とても綺麗だった。胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がして、上手く話せなくなる。見惚れていたら、パッと羅樹がこちらを向いて笑顔を浮かべた。
「あと一箇所だけ、こっち!」
「え、ちょっと羅樹!?」
羅樹は私の手を取って、駅とは少し違う方向に歩き始める。繋がれた手に意識が集中してしまって、ごつごつした感触に男の子なんだと再認識させられてしまう。顔に熱が集中してしまうので、コートの襟でちょっとだけ隠した。心臓がうるさくて、意味もなく耳を塞ぎたくなる。
「夕音、見て」
呼び掛けに反応し、私は顔を上げる。その光景に私は息を飲んだ。通りに植えられた木々、その一つ一つに電飾が施されている。青、黄、橙、桃など、色とりどりの光がキラキラと溢れている。よく見ると木の間にハート型のイルミネーションも隠れていて、可愛らしかった。
「綺麗…」
「ね。凄い綺麗だよね」
「うん…」
イルミネーションの下を、羅樹に手を引かれながら歩く。地面のタイルが青や水色の光を反射し、海のようにキラキラしている。時折ベンチの側などにメルヘンな形の電飾が置かれていた。
「夕音、昔からイルミネーションとか綺麗な景色とか、好きだったよね」
「うん?好きだよ?」
「だから、ね。今日、クリスマスなのに僕に付き合って遊んでくれたでしょ?そのお礼がしたかったんだ」
「え…」
私が来たくて来たのだ。そんなこと、気にしなくていいのに。
そう思う反面、私のためにイルミネーションに連れて来てくれたことが嬉しくて顔が火照る。恐らく1番大きいであろうツリー型のイルミネーションの前に来た時、羅樹は私の方を向いて優しい笑顔を浮かべた。
「一緒に来てくれてありがとう」
…ずるい。どうしてそんな顔を向けるの。好きなところばかりが増えていく。私ばかり好きで、ドキドキして、嬉しくなる。繋いだ手が熱を帯びていく。頬が外気に触れてちょうど良いと思うくらい、私は真っ赤なのだろう。吐く息が白いのに、ちっとも寒さを感じない。心の底からじんわりと温まっていく。ずるいよ。ずるいなぁ。
でも今はまだ、伝えられない。あと少しだけ、この関係でいさせて。罪悪感の無い、昔と同じ幼馴染みで。
そんなことを思いながら、少しだけ繋いだ手に力を込めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...