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12月23日 色
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五十嵐くんが去った後の廊下で、私は呆然としていた。いつもなら花言葉が背中を押して、花を受け取ったら心が晴れて、上手くいっていた。私の力では足りないほどに、五十嵐くんの心は厚い雲に覆われているというのだろうか。考えてもわからない、雨が止まない。晴れない。五十嵐くんの心は暗いままで、動いてくれない。私にはどうすることも出来ないのだろうか。何か、何かないか。五十嵐くんの言葉が脳内を反響する。
「その人が他の人に取られたら、それが何度も起こったら、君は平気でいられる?」
似たような話を聞いたことがある気がする。記憶を遡ると、爽が同じような境遇にいたことに思い至る。好きな人が親友を見ていて、こちらに振り向くことはない。五十嵐くんの好きな人も、自分のことを見てくれることはなかった。それで思い詰めて恋に臆病になって、わざと距離を取ろうとする。
でも、でもね。距離を取って帰ってきた時、失ったものに気付く方が怖いんだよ。
私はどうすればいいのか悩みながら、帰路に着くことにした。
帰り道、鳥居の前にふと見覚えのある姿が見えた。じっと神社の方向を見つめるその人は、私が近付くとこちらに気付いたらしい。表情を崩して私に手を振ってくれた。
「蓮乃くん」
「や、稲森。…稲森?」
「え、うん?何?」
蓮乃くんが目を細めて、私のことを注視する。首を傾げて私の肩の辺りを見ている彼の目には、一体何が映っているのだろうか。私が心の音が聞こえるのと同様に、蓮乃くんには神様やまたそれに準ずる力を持つ者に光が見えたはずだ。私はオレンジ色だと言われたが、一体どうしたのだろう。
「最近、何かあったか?」
「えっ…えーっと…」
神様に殺されかけていました、なんて簡単に言っていいのだろうか。私がまごついていると、蓮乃くんは神社内にあるベンチを指差し、そこに腰掛けることにした。
「話したくないことなら別にいいんだけど、なんか前と色が違うから」
「色?」
「オレンジは変わらないんだけど、それに混じってピンクみたいな…金みたいな光が見える」
「うーん、何だろう?呪いを受けたからかな」
「呪い!?」
「あ」
つい口走ってしまったので、最近あったことについてかいつまんで説明する。人に恋した神様が、私のような神の使いの力を取り入れると人になれるという噂を信じ、その手段として呪い殺そうとしたこと。その事件はもう解決し、神様も改心した上あちらの世の規則に則って処罰されること。この世界とかけ離れた内容に蓮乃くんは呆然としていたが、私の身を案じて怪我がないことを知ると心底ホッとしたようだった。
「そんなことって…あるんだな」
「私も驚いたよ。蓮乃くんは気を付けてね」
「おぅ。つーか、神の使いなんてそんな軽々しくなれるようなものじゃないしな。俺がなる日は来ないだろうよ」
「わかんないよ?急に誘われるかも」
「怖ぇこと言うなよ。…ん?」
悪戯っぽく言うと、蓮乃くんは苦笑いを返した。私の顔を見た瞬間、目を丸くした。
「目も赤く光ってるんだな。気付かなかった」
「えっ、目?」
「なんか、小さい光が宿ってる。いろんな色を持ってるな」
「なんでだろう…?」
「ま、細かいこと気にしても仕方ないだろ」
「そうだね。気にしてもわからないなら放っとくしかないかー」
「だな。俺、今日終業式だったからこっち来たんだけど、稲森のとこは?」
「私は明日だよ。いいなぁ、1日早いの」
「その分、休み中も稽古とかあるけどな」
私達は、互いの学校生活について話し始めた。
「その人が他の人に取られたら、それが何度も起こったら、君は平気でいられる?」
似たような話を聞いたことがある気がする。記憶を遡ると、爽が同じような境遇にいたことに思い至る。好きな人が親友を見ていて、こちらに振り向くことはない。五十嵐くんの好きな人も、自分のことを見てくれることはなかった。それで思い詰めて恋に臆病になって、わざと距離を取ろうとする。
でも、でもね。距離を取って帰ってきた時、失ったものに気付く方が怖いんだよ。
私はどうすればいいのか悩みながら、帰路に着くことにした。
帰り道、鳥居の前にふと見覚えのある姿が見えた。じっと神社の方向を見つめるその人は、私が近付くとこちらに気付いたらしい。表情を崩して私に手を振ってくれた。
「蓮乃くん」
「や、稲森。…稲森?」
「え、うん?何?」
蓮乃くんが目を細めて、私のことを注視する。首を傾げて私の肩の辺りを見ている彼の目には、一体何が映っているのだろうか。私が心の音が聞こえるのと同様に、蓮乃くんには神様やまたそれに準ずる力を持つ者に光が見えたはずだ。私はオレンジ色だと言われたが、一体どうしたのだろう。
「最近、何かあったか?」
「えっ…えーっと…」
神様に殺されかけていました、なんて簡単に言っていいのだろうか。私がまごついていると、蓮乃くんは神社内にあるベンチを指差し、そこに腰掛けることにした。
「話したくないことなら別にいいんだけど、なんか前と色が違うから」
「色?」
「オレンジは変わらないんだけど、それに混じってピンクみたいな…金みたいな光が見える」
「うーん、何だろう?呪いを受けたからかな」
「呪い!?」
「あ」
つい口走ってしまったので、最近あったことについてかいつまんで説明する。人に恋した神様が、私のような神の使いの力を取り入れると人になれるという噂を信じ、その手段として呪い殺そうとしたこと。その事件はもう解決し、神様も改心した上あちらの世の規則に則って処罰されること。この世界とかけ離れた内容に蓮乃くんは呆然としていたが、私の身を案じて怪我がないことを知ると心底ホッとしたようだった。
「そんなことって…あるんだな」
「私も驚いたよ。蓮乃くんは気を付けてね」
「おぅ。つーか、神の使いなんてそんな軽々しくなれるようなものじゃないしな。俺がなる日は来ないだろうよ」
「わかんないよ?急に誘われるかも」
「怖ぇこと言うなよ。…ん?」
悪戯っぽく言うと、蓮乃くんは苦笑いを返した。私の顔を見た瞬間、目を丸くした。
「目も赤く光ってるんだな。気付かなかった」
「えっ、目?」
「なんか、小さい光が宿ってる。いろんな色を持ってるな」
「なんでだろう…?」
「ま、細かいこと気にしても仕方ないだろ」
「そうだね。気にしてもわからないなら放っとくしかないかー」
「だな。俺、今日終業式だったからこっち来たんだけど、稲森のとこは?」
「私は明日だよ。いいなぁ、1日早いの」
「その分、休み中も稽古とかあるけどな」
私達は、互いの学校生活について話し始めた。
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