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12月23日 笑顔に重なる恋
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「…でも結局気付いたのはボクだけだった。長い間想っていたのは、ボクだけだった」
遠くを見つめる五十嵐くんの瞳は、どこか遠い、それこそ昔のことを見ているかのように細められていた。五十嵐くんは過去の出来事をかいつまんで話してくれた。時折目を閉じて思い出に浸っているようだったけれど。幼い頃、親と離れて寂しい思いをしてきた五十嵐くんは、やっと会えた両親と話すこともままならない親戚付き合い中にいとこの紗奈と知り合い、自分を見て寂しさから救い出してくれた彼女に惹かれた。そして再会に胸を躍らせてこちらに引っ越してきたが、紗奈は一目で気付けなかった上進級後に梶栗 竜夜という彼氏が出来てしまった。本当の気持ちを押し殺していた紗奈に、関係が変わることも恐れず好意を伝えた竜夜くん。側から見てもお似合いな2人だと思う。けれどそのどちらかに恋をしていた人の心中は測れない。確か竜夜くんに告白していた女の子、月宮さんの心の声も聞いたことがない。五十嵐くんとはまた違う辛さを飲み込んで、それでも前に進んでいるのだろうか。
五十嵐くんは眉尻を下げた笑顔を浮かべ、私の方を向いた。
「紗奈ちゃんが竜夜と結ばれて、幸せそうに笑うのを見て…あぁ良かったなって思ったんだ」
私はこの言葉を聞いて、自分の耳を疑った。好きな人が他の人と結ばれて、幸せそうな姿を見て祝福なんて出来ない。悔しくて、情けなくて、筋違いだと分かっていても相手を恨んでしまいそうだ。だが五十嵐くんはそんなこと1ミリも思わず、ただ良かったと感じたそうだ。
「驚くほどあっさりそう思って、つい笑っちゃったよ。それで、ボクは気付いたんだ。あの幸せそうな笑顔が見られるなら、守れるのなら、ボクは身を引こうって」
私は黙って次の言葉を待った。その様子に気付いたのかいないのか、五十嵐くんは再度口を開く。
「それで、紗奈ちゃんへの想いも友愛に変わった頃、あることに気付いたんだ。ボクを引っ張って、優しい笑顔を浮かべてくれる人が他にもいるって」
「…それが、亜美?」
私の問いに、五十嵐くんは微笑み頷いた。
「残念ながら、桐竜さんも恋人が出来ちゃったけどね」
自嘲するような笑みに、痛々しさを感じる。五十嵐くんはふっと私から視線を外し、遠くを見つめて呟くように言った。
「男は初恋の人を忘れないっていうのは本当なのかもね。桐竜さんに惹かれたのも、あの日見せてくれた紗奈ちゃんと似た笑顔だった。ボクはこれからも紗奈ちゃんの面影を追いながら、誰かを好きになっていくのかもしれない。けど、なんか、もういいかなって思っちゃうね」
私から視線を外したまま固い笑みを浮かべる五十嵐くんから、大きく厚い雲の気配がした。
遠くを見つめる五十嵐くんの瞳は、どこか遠い、それこそ昔のことを見ているかのように細められていた。五十嵐くんは過去の出来事をかいつまんで話してくれた。時折目を閉じて思い出に浸っているようだったけれど。幼い頃、親と離れて寂しい思いをしてきた五十嵐くんは、やっと会えた両親と話すこともままならない親戚付き合い中にいとこの紗奈と知り合い、自分を見て寂しさから救い出してくれた彼女に惹かれた。そして再会に胸を躍らせてこちらに引っ越してきたが、紗奈は一目で気付けなかった上進級後に梶栗 竜夜という彼氏が出来てしまった。本当の気持ちを押し殺していた紗奈に、関係が変わることも恐れず好意を伝えた竜夜くん。側から見てもお似合いな2人だと思う。けれどそのどちらかに恋をしていた人の心中は測れない。確か竜夜くんに告白していた女の子、月宮さんの心の声も聞いたことがない。五十嵐くんとはまた違う辛さを飲み込んで、それでも前に進んでいるのだろうか。
五十嵐くんは眉尻を下げた笑顔を浮かべ、私の方を向いた。
「紗奈ちゃんが竜夜と結ばれて、幸せそうに笑うのを見て…あぁ良かったなって思ったんだ」
私はこの言葉を聞いて、自分の耳を疑った。好きな人が他の人と結ばれて、幸せそうな姿を見て祝福なんて出来ない。悔しくて、情けなくて、筋違いだと分かっていても相手を恨んでしまいそうだ。だが五十嵐くんはそんなこと1ミリも思わず、ただ良かったと感じたそうだ。
「驚くほどあっさりそう思って、つい笑っちゃったよ。それで、ボクは気付いたんだ。あの幸せそうな笑顔が見られるなら、守れるのなら、ボクは身を引こうって」
私は黙って次の言葉を待った。その様子に気付いたのかいないのか、五十嵐くんは再度口を開く。
「それで、紗奈ちゃんへの想いも友愛に変わった頃、あることに気付いたんだ。ボクを引っ張って、優しい笑顔を浮かべてくれる人が他にもいるって」
「…それが、亜美?」
私の問いに、五十嵐くんは微笑み頷いた。
「残念ながら、桐竜さんも恋人が出来ちゃったけどね」
自嘲するような笑みに、痛々しさを感じる。五十嵐くんはふっと私から視線を外し、遠くを見つめて呟くように言った。
「男は初恋の人を忘れないっていうのは本当なのかもね。桐竜さんに惹かれたのも、あの日見せてくれた紗奈ちゃんと似た笑顔だった。ボクはこれからも紗奈ちゃんの面影を追いながら、誰かを好きになっていくのかもしれない。けど、なんか、もういいかなって思っちゃうね」
私から視線を外したまま固い笑みを浮かべる五十嵐くんから、大きく厚い雲の気配がした。
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