神様自学

天ノ谷 霙

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誇らしき我が主人 (短編)

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薄紫の内巻きの髪が揺れる。ふわふわとしたこの髪は、丁寧にブラッシングしてもストレートに変わることはなく、フォーマルな場所に出ることの多い私、青梅おうめ あまとしては嫌いなものだった。その髪だけで悪く言う者もいる。それが私への中傷だけなら許せたが、そのせいで私の主人あるじまで悪く言われるのは耐えられなかった。幼少期から2歳年上の主人、鳳凰ほうおう家の息子、こん様に付いていた。この国で最も権力を持つ娘、澪愛みおう家のせん様の婚約者候補だと騒がれていたお方。私は家柄もあり、生まれたその時から紺様の召使として育てられた。別に殊更疑問も抱かなかったし、そういうものなんだと思って生きてきた。幸いなことに、初対面時から今まで1度も仕えを外されることもなく、長く紺様を見守ってきた。そんな彼の様子が変わったのは、私が8歳になる頃。つまり紺様が10歳の頃だ。澪愛家での催し物に誘われ、初めて扇様に出会った日のこと。彼女は煌びやかなドレスを摘み上げ、優雅にお辞儀をする。
「初めまして、紺様。扇と申します。本日はようこそおいでくださいました」
「お招きいただき光栄です、扇様」
紺様の斜め後ろに立ち、何を指示されてもすぐに反応出来るように耳を傾ける。扇様はすぐに紺様の魅力に気付いたようで、瞳の奥に燃える情熱が見えた。可愛らしく可憐なお嬢様に、愛の情を向けられる我が主人。側仕えとして誇らしい気分だ。
お二人は挨拶もそこそこに、他の方へと挨拶回りへ向かう。何十人もの招待客と挨拶を交わした後、歓談へと移る。立食形式のパーティであるが、その豪華な料理に手を付ける者はほとんどいない。「勿体無いなぁ」と考えながらチラッと視線を動かすと、その先にあったのは紺様の好物のミニタルトだった。サクサクのタルト生地に、生クリーム。その上には宝石のような色とりどりの果物があしらわれている。挨拶と同時に名前、顔、その他いろいろな情報を瞬時に記憶するため稼働し続けている紺様の脳は、甘い物を欲しているだろう。落ち着いた際にいくつか取り分けて主人の元へ運ぶ。
「天?」
「素晴らしい料理が並んでいたので」
そう言って皿を差し出すと、予想通りミニタルトに瞳を輝かせた。幼いながらに家名に傷付けまいと振る舞っている主人に、側仕えからのちょっとしたエールだ。
「そうだな。いただかないのも勿体無い」
「他にも必要でしたらお申し付けください」
紺様は上品にミニタルトを口に運び、味の素晴らしさに感嘆の声を上げた。少年らしく頬を赤らめ微笑みを浮かべるその姿に、遠巻きに見ていた御令嬢は胸を打たれたようだ。罪深き人だと、心の中で思う。甘い物を食べて回復した紺様は歓談の輪に混ざり、そのままパーティは終了を告げた。
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