神様自学

天ノ谷 霙

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謝罪

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清治郎せいじろうの後を追うように、私と虹も光に包まれ元の世界に戻ってきた。洞窟特有の暗さと湿っぽさを感じる。
「夕音!」
「虹様!」
稲荷様とリーロの声がした方を向くと、稲荷様が私に飛び込んできた。灰色の岩石を背景に、揺れる稲穂色の髪。不確かであるが確かに感じるその温度に、こちらに戻ってきたのだと安心する。私も稲荷様を抱きしめ返し、その方が震えていることに気付いた。戸惑いながらカサマの方に視線を向けると、慈愛の満ちた涙の浮かぶ瞳で、私の方を見ていた。
「急に魔法陣が現れて、夕音様と姉神様がいなくなられたので。貴方がたを案じていたのです」
指で自身の涙を拭いながら話すカサマは、ホッとしたような笑顔を浮かべた。そういえば過去夢を見ようとかそんなことは考えず、ただ出来ると感じた方向に何も言わずに突き進んだ。私を呪い殺そうとした相手と共に消えたとなれば、その原因が神の力ではないとなれば尚更不安になるだろう。心配を掛けたことに気付き、申し訳なさでいっぱいになった。
「良かった…」
稲荷様はそう呟くと、私からそっと離れた。その表情には安堵の笑みが浮かんでいて、私は苦笑いする。
「申し訳ありませんでした」
謝罪の声が聞こえてそちらを向くと、深々と頭を下げる虹の姿があった。彼女は頭を上げずに、そのまま言葉を続けた。
此度こたびの騒動、貴方の命を狙った行為、その他諸々全て私の責任です。謝って済む話ではありません。我々の地において私は罪を償います。それでも、貴方に謝罪をさせていただきたい」
「虹様…」
神の地においての人殺しの罪がどれだけの重さを持つのかわからない。一個人を私怨で消したところでそれ程重くないのかもしれない。それでも自身で罪を償うと告げ、呪いの対象にした者に頭を下げた。神という、この世で少なくとも人よりは上の立場にある者が。
「…顔をお上げください、虹様」
私の言葉に一瞬固まったが、素直に従う。けれど顔は伏せたままで、長い睫毛が頬に影を落としている。
「私、貴方のしたことは許せません。痛かったし、苦しかったし、何より貴方の側でずっと支えてきたリーロが"貴方の為に"と苦しむ結果になってしまったことが悲しい」
「…夕音様…っ」
リーロがオロオロと視線を彷徨わせる。
「でも、結果論として言えることではありますが、貴方のおかげで私は"奇跡"が見られました。恋使の能力の使い方も、それが起こす喜びも」
私の言葉に、驚いた虹は反射的に顔を上げる。彼女の赤い瞳には、微笑む私が映っていた。
「教えてください、虹様。清治郎様と言葉を交わして、幸せでしたか」
「…えぇ、とても。願わくば、その感謝を貴方に伝えたいくらいには」
虹は泣きそうな顔で、しかし幸せそうに微笑んだ。その様子を見て、私は頷く。
「その言葉で十分です。そちらの戒律に干渉するつもりはありませんが、被害が出なかったこと、私はもう貴方にこれ以上苦しんで欲しくないことを考慮していただければ嬉しいとお伝えください」
リーロの方に視線を向けると「わかりました」という声と共に礼をされた。
「…稲荷」
虹とリーロが元の世に帰る前に、虹が稲荷様を呼び止めた。
「私と同じ道は歩まないでね。彼女にもう2度と会えなくなったとしても、それだけは」
重い実感を伴ったその言葉に、稲荷様は目を丸くして、やがて頷いた。
「えぇ、約束します」
虹は安堵の表情を浮かべ、魔法陣の光の中へと消えていった。
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