神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
406 / 812

憐憫

しおりを挟む
その幸せは、その夜に唐突に壊れることになる。
現代とは違って明かりの少ない夜だった。リーロが清治郎の家に現れ、虹を連れて帰る。そして朝日が昇ると同時に、清治郎以外の人は"虹"に関する記憶を失う。それに気付いた清治郎は生涯"虹"を探し続け、最後は孤独に、誰にも看取られずにあの世へ旅立つこととなる。
毎日、送った櫛と同じ白竜胆りんどうの花を摘んで小さな花束にしてから、彼女を探し求めて歩き回る。
私達が最初に見た光景を、死ぬまでずっと繰り返していた。文字通り、死ぬまで。
過去夢として遡って"見た"私を除けば、その事実を知る者はいないだろう。死の前日まで諦めずに探し続けた男のことを。努力は報われず、死後も会うことの叶わない哀れな男のことを。
そこで目の前の景色は一瞬で移り変わる。私が前に見た続きが流れるのかと思いきや、"虹"と"リーロ"が目の前に現れた。悲しそうな顔付きで、それでも真剣に仕事に取り組む"虹"と、支える"リーロ"。
「それでは、届けて参りますね」
「えぇ、頼むわ」
パタンと扉が閉じられて、1柱となった"虹"は「はぁ」と深いため息を吐いた。引き出しから藍色の風呂敷を取り出し、その中に小さく収まっていた櫛を取り出す。黒地に白い花々や鮮やかな緑の葉が繊細に描かれ、波打つように金も差されている。町外れで農民をやっている者の手が、簡単に届くような値打ちの物では無い。僅かな期間で貯められる分では足りない。昔からずっと貯めていたお金を使ってまで、そこまで覚悟を決めて結婚を申し込んだのだった。それが分かるからこそ、"虹"には余計悔しさが込み上げる。約束を反故にした自分が許せず、叶うならばもう1度彼に会いたいと願った。神が神頼みなどおかしな話だが、自分の上がいるなら、願いを聞いてくれる者がいるのならその者に頼みに行くほどには強く願っていた。しかし一個人を愛し、結婚を承諾するなどの勝手をした罰として、150年近くは人の世に降りることは叶わなかった。そしてやっとの思いで人の世を再び訪れたとき、悲しきかな人の寿命は彼女に比べれば圧倒的に短く、彼はいなかった。街の様子も全く変わった状態であり、探してもあの時の面影は欠片かけらも残っていない。悲しみに打ちひしがれた"虹"は、どうにかしてあの日に戻ろうと考え始めた。あの日に戻れたら人間となって約束を守り、彼と共に天へ還ろうと。
その考えはいつからか「人間になること」を目標へと変え、思い出すと苦しいからと記憶を封じ、ただ恋に縛り付けられた哀れな神様を生み出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...