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期待
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洞窟の奥の奥へ、虹を追って行く。進む道から湿り気が無くなり、水に足を取られることもなくなっていく。やがて少し広い空間に出た。机に椅子に、ちょっとした事務室のようだ。虹はというと、壁際にある大きな本棚から本を取り出しては中身をめくり、「無い、無い」と呟いている。確認した本は床に投げ捨て、必死に探している。リーロにかけた呪いを解く方法を。足元に転がってきた本を拾い上げ、パラパラとめくる。一緒に探すつもりで追い掛けてきたが、本に書かれた文字はこちらの世のものではなかった。つまり、読めない。探すことを手伝えたのなら、早く、見落としなく、解決法を見つけられたかもしれないのに。悔しさに無意識に唇を噛んだその時だった。
「無い…!」
虹の震える声が、空間に反響した。本から視線を外すと、本棚の中にはもう1冊も残っていなかった。代わりに色とりどりの装丁が床に散らばっていた。虹は膝から頽れて、顔を歪めた。
「…やはり、あれには…!」
「あれには、何?」
私の言葉に顔を上げる虹。視線を彷徨わせた後で、躊躇いがちに呟いた。
「あれには、解除の方法など無いのだ…それ程までに強力なものを、探し出してきたから…」
言いながら虹はとうとう泣き出してしまった。「どうしよう、どうしよう」と焦るばかりで何かを試そうともしない。その先に進もうとしない。
虹が下を向いたせいで、床に水滴がぽたりぽたりと落ちる。
「…私のせいで…!」
自分を責めるだけで、周りを見ない。後悔するだけで、その先を考えない。
昔の夕音を見ているようで、苛立ちがこみ上げてきた。
羅樹とのことでからかわれるのが嫌で、避けた私。
羅樹を好きな人がいると聞いて不安になった私。
自分から離れたのに、側に来て貰おうとする甘えた私。
自分が悪いと分かっているのに、行動するべきなのは自分だと分かっているのに、心のどこかで誰かが助けてくれるのを待っている。諦めたふりをして、救いの手が差し伸べられることを期待している。
「馬鹿じゃないの」
唇だけが、そう動いた。私は虹に近寄り、彼女の頬にそっと触れる。そして、思いっきり頭突きをした。
「…っ!?」
額からじわじわと痛みが広がっていく。虹の目の前に星が飛んでいたが、構わない。まっすぐに彼女を見つめた。赤に映る私の朱が、力強く燃えている。
「自分で動かなきゃ、運命は答えてくれないのよ」
私は立ち上がって、来た道を戻った。
「無い…!」
虹の震える声が、空間に反響した。本から視線を外すと、本棚の中にはもう1冊も残っていなかった。代わりに色とりどりの装丁が床に散らばっていた。虹は膝から頽れて、顔を歪めた。
「…やはり、あれには…!」
「あれには、何?」
私の言葉に顔を上げる虹。視線を彷徨わせた後で、躊躇いがちに呟いた。
「あれには、解除の方法など無いのだ…それ程までに強力なものを、探し出してきたから…」
言いながら虹はとうとう泣き出してしまった。「どうしよう、どうしよう」と焦るばかりで何かを試そうともしない。その先に進もうとしない。
虹が下を向いたせいで、床に水滴がぽたりぽたりと落ちる。
「…私のせいで…!」
自分を責めるだけで、周りを見ない。後悔するだけで、その先を考えない。
昔の夕音を見ているようで、苛立ちがこみ上げてきた。
羅樹とのことでからかわれるのが嫌で、避けた私。
羅樹を好きな人がいると聞いて不安になった私。
自分から離れたのに、側に来て貰おうとする甘えた私。
自分が悪いと分かっているのに、行動するべきなのは自分だと分かっているのに、心のどこかで誰かが助けてくれるのを待っている。諦めたふりをして、救いの手が差し伸べられることを期待している。
「馬鹿じゃないの」
唇だけが、そう動いた。私は虹に近寄り、彼女の頬にそっと触れる。そして、思いっきり頭突きをした。
「…っ!?」
額からじわじわと痛みが広がっていく。虹の目の前に星が飛んでいたが、構わない。まっすぐに彼女を見つめた。赤に映る私の朱が、力強く燃えている。
「自分で動かなきゃ、運命は答えてくれないのよ」
私は立ち上がって、来た道を戻った。
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