393 / 812
???? 書き置き
しおりを挟む
翌日、書き置きを見つけた清治郎が家中を走り回って虹を探す様子を見た。そんなに広い家ではないので、あっという間に探し終えてしまう。隠れるような場所も無いので、すぐに家にいないことは分かったようだ。外へ飛び出して近所の人に特徴を話し、見てないか、知らないか、聞いて回る。僅かな期間ではあったが、虹と清治郎は仲睦まじい2人として評判だった。真面目で性格の良い清治郎がやっと所帯を持つのか、と村人たちは安心しているほどだった。いきなり現れた異国風の女性に、そこまで気を許して良いものなのか心配になるくらい、村中は歓迎ムードだった。
ところが、清治郎が最初に行った隣の家の奥さんは「そんな人、一度も見たことがないけど」と言ったのだった。清治郎は慌てて他の家も回って虹のことを聞いた。けれど覚えている者はおらず、ここ数日間で虹の記憶だけが上手く隠されているようだった。記憶すらも操る、ヒトではない存在。それが虹の正体らしい。
「…そんな…」
そんなことを知るはずもなく、清治郎はふらふらと家に戻った。そこにはやはり書き置きがあり、虹は確かにここにいたという証明になっている。だからこそ、周りの人が覚えてないのがおかしかった。
いっそ書き置きすらもなく、自分の記憶すらも無ければこんなに苦しい思いをしなくて良かったのに。
どこに行っちまったんだよ、虹。
清治郎の心の声が聞こえた。失った悲しみに暮れていても、虹が戻ってくることはなかった。清治郎は元の独りぼっちの仕事と両立する生活に戻ったが、たまにふと手を止めて空を見上げる。心にぽっかり穴が空いているような、そんな心を埋めるような行動だった。
それからは早送りのように日々が過ぎ去っていった。清治郎はいつの間にか歳を取り、けれど誰も娶らず、生涯孤独に彼女の面影を追っていた。忘れられない彼女との日々に勝る女性は現れなかったらしい。たまに時間が空けば、ふらっと外に出て何かを探すような仕草をする。早送りで強制的に見せられるその映像の中で、清治郎は何度も何度も何かを探していた。恐らくは、虹を。白い肌に赤い瞳。まるでアルビノのように美しいその女性を、清治郎はずっと探し求めていた。そしてそのまま、清治郎は探し出せないまま布団の中で息を引き取った。近所の人が清治郎の死に気付いた時には魂はこの世になかった。その後小さな葬式が行われ、清治郎の冥福が祈られた。雪がチラつく、冬のある日のことだった。
ところが、清治郎が最初に行った隣の家の奥さんは「そんな人、一度も見たことがないけど」と言ったのだった。清治郎は慌てて他の家も回って虹のことを聞いた。けれど覚えている者はおらず、ここ数日間で虹の記憶だけが上手く隠されているようだった。記憶すらも操る、ヒトではない存在。それが虹の正体らしい。
「…そんな…」
そんなことを知るはずもなく、清治郎はふらふらと家に戻った。そこにはやはり書き置きがあり、虹は確かにここにいたという証明になっている。だからこそ、周りの人が覚えてないのがおかしかった。
いっそ書き置きすらもなく、自分の記憶すらも無ければこんなに苦しい思いをしなくて良かったのに。
どこに行っちまったんだよ、虹。
清治郎の心の声が聞こえた。失った悲しみに暮れていても、虹が戻ってくることはなかった。清治郎は元の独りぼっちの仕事と両立する生活に戻ったが、たまにふと手を止めて空を見上げる。心にぽっかり穴が空いているような、そんな心を埋めるような行動だった。
それからは早送りのように日々が過ぎ去っていった。清治郎はいつの間にか歳を取り、けれど誰も娶らず、生涯孤独に彼女の面影を追っていた。忘れられない彼女との日々に勝る女性は現れなかったらしい。たまに時間が空けば、ふらっと外に出て何かを探すような仕草をする。早送りで強制的に見せられるその映像の中で、清治郎は何度も何度も何かを探していた。恐らくは、虹を。白い肌に赤い瞳。まるでアルビノのように美しいその女性を、清治郎はずっと探し求めていた。そしてそのまま、清治郎は探し出せないまま布団の中で息を引き取った。近所の人が清治郎の死に気付いた時には魂はこの世になかった。その後小さな葬式が行われ、清治郎の冥福が祈られた。雪がチラつく、冬のある日のことだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる