神様自学

天ノ谷 霙

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???? 書き置き

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翌日、書き置きを見つけた清治郎が家中を走り回って虹を探す様子を見た。そんなに広い家ではないので、あっという間に探し終えてしまう。隠れるような場所も無いので、すぐに家にいないことは分かったようだ。外へ飛び出して近所の人に特徴を話し、見てないか、知らないか、聞いて回る。僅かな期間ではあったが、虹と清治郎は仲睦まじい2人として評判だった。真面目で性格の良い清治郎がやっと所帯を持つのか、と村人たちは安心しているほどだった。いきなり現れた異国風の女性に、そこまで気を許して良いものなのか心配になるくらい、村中は歓迎ムードだった。
ところが、清治郎が最初に行った隣の家の奥さんは「そんな人、一度も見たことがないけど」と言ったのだった。清治郎は慌てて他の家も回って虹のことを聞いた。けれど覚えている者はおらず、ここ数日間で虹の記憶だけが上手く隠されているようだった。記憶すらも操る、ヒトではない存在。それが虹の正体らしい。
「…そんな…」
そんなことを知るはずもなく、清治郎はふらふらと家に戻った。そこにはやはり書き置きがあり、虹は確かにここにいたという証明になっている。だからこそ、周りの人が覚えてないのがおかしかった。

いっそ書き置きすらもなく、自分の記憶すらも無ければこんなに苦しい思いをしなくて良かったのに。

どこに行っちまったんだよ、虹。

清治郎の心の声が聞こえた。失った悲しみに暮れていても、虹が戻ってくることはなかった。清治郎は元の独りぼっちの仕事と両立する生活に戻ったが、たまにふと手を止めて空を見上げる。心にぽっかり穴が空いているような、そんな心を埋めるような行動だった。
それからは早送りのように日々が過ぎ去っていった。清治郎はいつの間にか歳を取り、けれど誰も娶らず、生涯孤独に彼女の面影を追っていた。忘れられない彼女との日々に勝る女性は現れなかったらしい。たまに時間が空けば、ふらっと外に出て何かを探すような仕草をする。早送りで強制的に見せられるその映像せかいの中で、清治郎は何度も何度も何かを探していた。恐らくは、虹を。白い肌に赤い瞳。まるでアルビノのように美しいその女性を、清治郎はずっと探し求めていた。そしてそのまま、清治郎は探し出せないまま布団の中で息を引き取った。近所の人が清治郎の死に気付いた時には魂はこの世になかった。その後小さな葬式が行われ、清治郎の冥福が祈られた。雪がチラつく、冬のある日のことだった。
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