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Merry Christmas! 2019 蓮乃
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ここは私立音大附属の有名高校。中高一貫のほぼエスカレーター式。高校から入ってくる人も僅かにいるが、大抵が中学受験からの持ち上がりだ。その一人である俺も、双子の姉である編茶乃も、この学校での生活は5年目を迎えている。
「高校生になったら、きっと眞里阿が来てくれる」
そう言って信じていた編茶乃は、入学式で呼ばれることのない名前を待ち続けていた。小学生の時に音楽の話で盛り上がった友達と、同じ高校に行くのを楽しみにしていたのだ。けれど辻が高校に来ることはなく。俺と反対で、同じ理由だった。家に縛られて親に縛られて、そのせいで自由に自分のやりたいことを選択することが出来ない。俺は特に音楽をやりたいとも、やりたくないとも思わない。だから流れるようなこの日々に身を任せているわけだが、時折聞こえてくる嫉妬の声は、なかなかにこたえる時がある。それでも、優秀な姉を憎む理由にはならなかった。ただ単に俺が編茶乃の才能に納得しているからだと思っていたし、尊敬しているからだと思っていた。理由なんてどうでも良かったし、編茶乃が笑えればそれで良かった。それでも、心の何処かには歪みをきたしていたようで。俺は無意識に心の傷を覆い隠していたらしい。見るな、と。気付くな、と。そんな俺の目隠しを外して現実を直視させて来たのは、音楽祭に来た稲森 夕音という女の子だった。俺と同い年で不思議なオレンジ色を纏った女の子。彼女に連れられて行った神社で、自分の能力を知った。到底信じられる話ではないはずなのに、傷と共に隠していた幼い頃の記憶が蘇って思い出してしまった。他人には見えないものが見えること、見えてしまうこと。それに編茶乃が怯えていたこと。守らなきゃ、って思ったこと。
大切なことを記憶の奥底に隠していた。次こそは忘れないようにしなくては、なんて。
「…の、蓮乃?」
「…え、あぁ…何?」
「ボーッとして、どうしたの?」
楽器を手にした編茶乃が、そう問いかける。俺は今学校にいることを思い出し、ふと我に返った。今日は学校をあげての音楽祭。クリスマス・イヴに行われる発表会だ。
「ごめん、ちょっと懐かしいこと思い出してた」
「思い出に浸るのも良いけど、私はこれからの演奏について考えて欲しかったわ」
「それは大丈夫だろ。なんたって俺と編茶乃だからな」
「何それ」
くすくすと笑う編茶乃に、俺もつられて笑う。名前を呼ばれる声がして、舞台に足を踏み出した。
『編茶乃、あれが怖いのか?』
『怖い。変な感じがして嫌』
『じゃあ俺が守るよ。それなら怖くないだろ?』
『怖くない…けど出来るの?怖くないの?』
『怖くないさ。なんたって、俺と編茶乃だからな。2人がいれば無敵だ!』
『何それ…ふふっ、でも、そうだね』
『あぁ、任せろ』
「高校生になったら、きっと眞里阿が来てくれる」
そう言って信じていた編茶乃は、入学式で呼ばれることのない名前を待ち続けていた。小学生の時に音楽の話で盛り上がった友達と、同じ高校に行くのを楽しみにしていたのだ。けれど辻が高校に来ることはなく。俺と反対で、同じ理由だった。家に縛られて親に縛られて、そのせいで自由に自分のやりたいことを選択することが出来ない。俺は特に音楽をやりたいとも、やりたくないとも思わない。だから流れるようなこの日々に身を任せているわけだが、時折聞こえてくる嫉妬の声は、なかなかにこたえる時がある。それでも、優秀な姉を憎む理由にはならなかった。ただ単に俺が編茶乃の才能に納得しているからだと思っていたし、尊敬しているからだと思っていた。理由なんてどうでも良かったし、編茶乃が笑えればそれで良かった。それでも、心の何処かには歪みをきたしていたようで。俺は無意識に心の傷を覆い隠していたらしい。見るな、と。気付くな、と。そんな俺の目隠しを外して現実を直視させて来たのは、音楽祭に来た稲森 夕音という女の子だった。俺と同い年で不思議なオレンジ色を纏った女の子。彼女に連れられて行った神社で、自分の能力を知った。到底信じられる話ではないはずなのに、傷と共に隠していた幼い頃の記憶が蘇って思い出してしまった。他人には見えないものが見えること、見えてしまうこと。それに編茶乃が怯えていたこと。守らなきゃ、って思ったこと。
大切なことを記憶の奥底に隠していた。次こそは忘れないようにしなくては、なんて。
「…の、蓮乃?」
「…え、あぁ…何?」
「ボーッとして、どうしたの?」
楽器を手にした編茶乃が、そう問いかける。俺は今学校にいることを思い出し、ふと我に返った。今日は学校をあげての音楽祭。クリスマス・イヴに行われる発表会だ。
「ごめん、ちょっと懐かしいこと思い出してた」
「思い出に浸るのも良いけど、私はこれからの演奏について考えて欲しかったわ」
「それは大丈夫だろ。なんたって俺と編茶乃だからな」
「何それ」
くすくすと笑う編茶乃に、俺もつられて笑う。名前を呼ばれる声がして、舞台に足を踏み出した。
『編茶乃、あれが怖いのか?』
『怖い。変な感じがして嫌』
『じゃあ俺が守るよ。それなら怖くないだろ?』
『怖くない…けど出来るの?怖くないの?』
『怖くないさ。なんたって、俺と編茶乃だからな。2人がいれば無敵だ!』
『何それ…ふふっ、でも、そうだね』
『あぁ、任せろ』
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