神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
385 / 812

12月17日 内側

しおりを挟む
やっと私を悩ませていた2つの出来事が解決し、落ち着いた日々に戻った。北原くんは前と同じように接してくれるようになった。休み時間の度に話しかけてくることはなくなり、人の噂も75日、というように3年生になることには落ち着いているだろう。朝偶然会った爽は、普段あまり動かさない表情筋を駆使してぎこちない笑顔を浮かべてくれた。爽の温かさが心地良くて、私は微笑みながら挨拶を返した。
あとは、最後の決意。
羅樹に告白すること。
行動しなくてはならない。ぬるま湯のような日々に満足していては、誰かに取られてしまう。それで後悔するのは嫌だから。
そんなことを考えながら階段を一段下りたその時、ぐらっと視界が揺れた。
「えっ」
持っていた教科書が手から滑り落ちてバサバサと音を立てながら床に散乱する。隣にいた眞里阿が慌てて私を支えるが、私はそのまま立っていられなくて手すりに掴まりながらうずくまった。貧血のように頭がクラクラして目の前が遠くなる。それなのに意識だけはしっかりとあって、気絶することは許してくれない。喉の奥に苦しみがあって、それが迫り上がってこようとしているみたいだ。吐き気ではない。痛みだけが喉の奥から身体中に巡っていくような、そんな不思議な感覚。
「…っう、あ」
声にならない声が出る。息が切れて、何か強い力で内側から壊されていくような、私という存在がぐしゃぐしゃにされていく、そんな気がした。
「っ…は、ぁ…はぁ…」
暫く苦しみに耐えていると、スゥっと痛みは喉の奥に戻された。汗が全身をつたい、息切れと動悸だけが後に残った。
「…ね、夕音…!?」
ずっと背中をさすってくれていたらしい眞里阿の声が、やっと耳に入る。先程まで何も聞こえなかった。耳に入ってくるのは、今にも壊れそうなほどに脈打つ動悸音と、自分の呼吸音だけだった。
「…がっ…う…ご、ごめん…大丈夫…」
「大丈夫じゃないよ!顔真っ青だよ!?保健室行こう。立てる?」
頷いたが、正直立てる気はしない。足にうまく力が入らない。動こうとしたら、階段に完全にお尻を付けて座り、足を投げ出した状態になってしまった。
「…ここで待ってて。先生呼んでくる」
眞里阿は私の教科書を素早く拾い、私の側に置いたら近くの教室に片っ端から入って行った。行動力がある、優しい友人。彼女を待っている間、ゆっくりと呼吸を整えていた。
『夕音』
聞き覚えのある声が、脳内で反響した。
『神社に、来い』
手短な言葉の中に、焦りが混ざっているような気がした。
しおりを挟む

処理中です...