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12月14日 誤解
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爽を捕まえられたのは、蒼くんが育てている花壇の前だった。校門からは見えにくいその場所で、私は爽の手を掴んでいた。
「爽」
名前を呼ぶと、びくりと肩を震わせる。それでも振り向きはしない。私が爽の手を掴んだ状態で沈黙が続く。何を言えば良いんだろう。どうすれば良いんだろう。私は進むために話を聞きに来たのに、どうすれば良いか教えて貰いに来たのに、何も答えが返ってこないなら進みようがない。
私の考えが甘えだと言うなら、教えてほしい。自分の何がいけなかったのか、どうして泣かせてしまったのか。その理由を知らぬままにどうして謝れるのか。そんな表面すら取り繕えていない謝罪で、仲が戻るとでも思っているのか、と。
「ねぇ、爽。勘違いしてた、って?」
爽は答えない。振り向かない。
「お願い、教えて。私の言動が誤解を招いたんでしょう?爽が泣いたのは事実なんでしょ?なら私にと非がある。だから仲直りさせて。仲直りしたいの、お願い」
私の懇願に、爽が少しだけ手に入れている力を緩めた。やがてゆっくりと振り向く。赤くなった瞳が痛々しかった。
「ご、めん…アタシ、夕音に盗られたって…思、って…」
ポツポツと話し出す爽。堪えきれない涙にしゃくり上げながら、ゆっくりと話す。北原くんと私が付き合いだしたと思った、と。怖かった、苦しかった。2人とも失うんじゃないか、と。
私は驚いて目を丸くした。
「夏休みに言ってた、一緒にいて楽しい人って…もしかして?」
私の問いかけに、静かに頷く爽。その動作は肯定を意味していた。
「光は、アタシを支えてくれた。光にはそんなつもりは無かったのかもしれないけど、アタシは救われた。でも光は亜美に惚れて、ずっと一方通行の関係だった。だけど、亜美に彼氏が出来て、やっとこっちを見てもらえるかもって思ったのに、夕音との噂を聞いて。それで、怖くなって。また、また嫌いになっちゃうのかなって」
爽は昔、亜美のことを好きな人が好きだったという。その人に告白したところ、暴言を返されたと。そんなことが数回続き、精神的に追い詰められて亜美を責めるしか無かったと。言動には出さなかったが、そんなことを思ってしまう自分が嫌いだったと。そう、爽は告げた。
「同じこと、繰り返すのかなって思った。嫌だった。今回は夕音に"馬鹿"って言っちゃったし。前より酷くなるかもしれない、って怖かった」
爽の震えが繋いだ手越しに伝わってくる。私は爽の手を引いて、抱き締めた。驚いた様子だったが、私がぎゅうっと強く抱き締めると、爽も震える手を私の背中に回した。
「大丈夫だよ、大丈夫。酷くなんてなってない。ちゃんと教えてくれたじゃない。まだやり直せる。ねぇ、爽。仲直りしよう?」
「…え…?」
「私もすぐに北原くんに返事をして、噂なんて流れる暇を与えなければ良かった。やめてって言えば良かった。爽に誤解を与えたのは私。馬鹿なのは私。でも、それでも爽は私を傷付けたんじゃないかって恐れてくれたんでしょ?私に嫌われるのを、なんて、私の願望かな」
爽はぶんぶんと首を横に振った。紫の髪が少し頬に掠って、くすぐったい。
「じゃあ仲直りしよう。私は、爽とこれからも友達でいたい」
爽が頷いて、私達はようやく元の関係に、ううんそれ以上に仲を深めた関係になれたんだ。
「爽」
名前を呼ぶと、びくりと肩を震わせる。それでも振り向きはしない。私が爽の手を掴んだ状態で沈黙が続く。何を言えば良いんだろう。どうすれば良いんだろう。私は進むために話を聞きに来たのに、どうすれば良いか教えて貰いに来たのに、何も答えが返ってこないなら進みようがない。
私の考えが甘えだと言うなら、教えてほしい。自分の何がいけなかったのか、どうして泣かせてしまったのか。その理由を知らぬままにどうして謝れるのか。そんな表面すら取り繕えていない謝罪で、仲が戻るとでも思っているのか、と。
「ねぇ、爽。勘違いしてた、って?」
爽は答えない。振り向かない。
「お願い、教えて。私の言動が誤解を招いたんでしょう?爽が泣いたのは事実なんでしょ?なら私にと非がある。だから仲直りさせて。仲直りしたいの、お願い」
私の懇願に、爽が少しだけ手に入れている力を緩めた。やがてゆっくりと振り向く。赤くなった瞳が痛々しかった。
「ご、めん…アタシ、夕音に盗られたって…思、って…」
ポツポツと話し出す爽。堪えきれない涙にしゃくり上げながら、ゆっくりと話す。北原くんと私が付き合いだしたと思った、と。怖かった、苦しかった。2人とも失うんじゃないか、と。
私は驚いて目を丸くした。
「夏休みに言ってた、一緒にいて楽しい人って…もしかして?」
私の問いかけに、静かに頷く爽。その動作は肯定を意味していた。
「光は、アタシを支えてくれた。光にはそんなつもりは無かったのかもしれないけど、アタシは救われた。でも光は亜美に惚れて、ずっと一方通行の関係だった。だけど、亜美に彼氏が出来て、やっとこっちを見てもらえるかもって思ったのに、夕音との噂を聞いて。それで、怖くなって。また、また嫌いになっちゃうのかなって」
爽は昔、亜美のことを好きな人が好きだったという。その人に告白したところ、暴言を返されたと。そんなことが数回続き、精神的に追い詰められて亜美を責めるしか無かったと。言動には出さなかったが、そんなことを思ってしまう自分が嫌いだったと。そう、爽は告げた。
「同じこと、繰り返すのかなって思った。嫌だった。今回は夕音に"馬鹿"って言っちゃったし。前より酷くなるかもしれない、って怖かった」
爽の震えが繋いだ手越しに伝わってくる。私は爽の手を引いて、抱き締めた。驚いた様子だったが、私がぎゅうっと強く抱き締めると、爽も震える手を私の背中に回した。
「大丈夫だよ、大丈夫。酷くなんてなってない。ちゃんと教えてくれたじゃない。まだやり直せる。ねぇ、爽。仲直りしよう?」
「…え…?」
「私もすぐに北原くんに返事をして、噂なんて流れる暇を与えなければ良かった。やめてって言えば良かった。爽に誤解を与えたのは私。馬鹿なのは私。でも、それでも爽は私を傷付けたんじゃないかって恐れてくれたんでしょ?私に嫌われるのを、なんて、私の願望かな」
爽はぶんぶんと首を横に振った。紫の髪が少し頬に掠って、くすぐったい。
「じゃあ仲直りしよう。私は、爽とこれからも友達でいたい」
爽が頷いて、私達はようやく元の関係に、ううんそれ以上に仲を深めた関係になれたんだ。
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