神様自学

天ノ谷 霙

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12月14日 教えて

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泣き崩れたいのは、きっと私じゃなくてあの人の方。微笑み返してくれたのに、私にはそれすらも胸を締め付ける原因となっていて。応えられなくてごめんなさい。関係を変えるのに臆病になってごめんなさい。こんな私は最後にするから、私なんて忘れて、新しい恋を探してください。
そんなこと祈る資格すら、私には無いのかもしれないけど。
足が震えて、体が強張る。悩みの一つが解決したことに対する安堵と、それで進んだ関係への恐怖。だからって止まってるわけにはいかない。私は次へ行かなくては。早く歩き出さなくては。止まってる時間すら勿体無い。決心が変わる前に、早く。
教室へ戻ろうと振り向いた瞬間、そこには一つの影があった。毛先だけが白い、紫色の髪。普段は腰まである長さの髪を先で縛っているが、今日は下ろしたままだった。少しやつれているような印象を受けるのは、微かに見える隈と、赤くなった目のせいだろうか。
「…爽」
私が名前を呼ぶと、一瞬俯いて目を瞑った。爽が泣きそうな顔で「馬鹿」と言った日から、何日が経っただろうか。何日解決を先延ばしにしてきただろうか。きっと時間にしたら1週間も経っていない。けれど、もやもやしたまま引き摺っていればもっと長い時間が経ったように感じる。私のここ2週間ぐらいはやけに遅く感じていた。悩みを引き摺って、解決出来なくて、怖くて。そのせいで感じるのは時間の重みだけ。でも、私は。
「進むって、決めたんだ」
ボソッと口の中で決意をして、爽に一歩近付く。爽は何も言わない。ただじっと私を睨み付けるように見つめているだけだ。
「爽、私、何をしてしまったか分からない。どうして爽を泣かせてしまったのかが分からないの」
私の言葉に、眉をひそめる爽。
「だけど泣かせてしまったのが私であると、それだけは分かる。だから謝りたい。けど何が原因で泣かせてしまったのかが分からないと上辺だけの謝罪になってしまうから。だから教えて欲しい。どうして、爽は」
その後の言葉が上手く出てこなかった。爽はびっくりしたように目を見開いた後、一歩私に近付いて来た。
「アタシの、勘違いだった」
爽はまた泣きそうな顔をして、その場から走り去ってしまう。
「待って!」
私の声が届かないくらい遠くに、速く行ってしまう。運動部なだけあって、足が速い。高校に入ってから毎日運動なんてしなくなってしまった私には、追い付くのは難しいだろう。
それでも、私は爽を追いかけて地面を蹴った。
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