神様自学

天ノ谷 霙

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12月12日 電話

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目を覚ますと9時過ぎで、ゆっくりと体を起こした。まだ眠気が残る目を擦りながら、一階に降りる。昨日は帰りが少し遅くなってしまった。お土産に買おうと思っていたドーナツも忘れて、利羽の嬉しそうな顔ばかり反芻していた。
結局、利羽は教室で何を言おうとしていたのだろう。
そういえばそれも聞き忘れていた。利羽の気分転換に気を取られて、ついつい忘れてしまった。考えても私にはどうしようもないので、無心でご飯を食べることにした。マーガリンを塗って焼いた食パンはカリッとして美味しく、その上に塗った苺ジャムの酸味と甘味が舌の上に広がっていく。マーガリンの塩味と絶妙にマッチして、幸せな気分になる。パンに合わせて淹れた紅茶は、最近お母さんが買ってきたレモンティーだ。爽やかでスッキリした味だった。
食べ終えて、そのままリビングに居座ることにした。向かいでテレビを見ていたお母さんが、まぶたと格闘している。やがてその勝負にはお母さんが負け、机に突っ伏したまま眠ってしまった。私は側にあった毛布をかけ、テレビを消す。携帯を見ると、何やら通知が来ていた。表示されたのは「蝶野 利羽」。アプリを開くと「電話して良い?」というメッセージが5分前に来ていた。私は「大丈夫だよ」と送って自室に戻った。程なくして、利羽から電話が掛かって来た。
『もしもし?』
「もしもし、利羽?どうしたの?」
『いや、昨日…その…あのね』
言いにくそうに言葉を何度も濁す利羽。昨日の放課後のことを思い出した。昨日出来なかった話をするために、わざわざ連絡をしてくれたのだろうか。優しさに、心が軽くなる。数秒の沈黙の後、利羽が息を吸う音が聞こえた。
『夕音、えっと…元気?』
電話越しに聞こえて来たのはそんな言葉で。私は思わず「え?」と言ってしまった。電話の向こうで、慌てた音が聞こえる。
『ち、違っ、えっと、ほら、水曜日に早退して次の日休んでたじゃない?でもその次の日には学校に来たから、大丈夫なのかなぁって!』
弁明するような声だが、何かあったのだろうか。とりあえず私は、利羽の質問に答えることにする。
「うん、大丈夫だよ。何か熱があったのが不思議なくらい元気なの。心配してくれてありがとう」
私の言葉にホッとしたらしい。安堵の溜め息が聞こえた。
『最近悩みも多そうだったから、心配で。何かあるなら話くらい聞くわ。いつも私が聞いてもらう側だし、お礼くらいさせて。昨日もプレゼント貰っちゃったし…』
「ありがとう。でも私も利羽と仲良くさせて貰って嬉しいし、お礼なんていらないのに。プレゼントだって、急に渡して迷惑じゃなかった?」
『ううん凄く嬉しかった!!』
耳をつんざくような大きな声で、利羽が叫ぶ。それ程嬉しかったのか、と思わず笑みが溢れる。一旦耳から離した受話器からは、慌てる利羽の様子が伺えた。
「なら良かった」
『うん、えっと…それでね、何か困ってることがあったら相談して欲しいなって言おうと思って…何だか緊張しちゃって、言えなかったの。買い物が楽しくてつい忘れちゃって…』
「そうなの?ありがとう。困ってること、ねぇ…」
ふとぎったのは、爽だった。
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