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12月11日 虚弱体質
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楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けばもう外は真っ暗になっていた。冬は暗くなるのが早いとはいえ、時計はもう7時5分前を指していた。おやつで程よく空腹が満たされた後、小物や服を見て回った。可愛らしいパステル調の文房具に目を奪われ、ついつい衝動買いをしてしまった。利羽はものが棚に陳列していること自体珍しいらしく、あっちへこっちへと忙しなく行き来していた。いろんなものが欲しくなってしまったようだが、「無駄遣いって言われちゃうわ。治療費もずっと頼りっぱなしだし、申し訳ないもの」と我慢する様子だった。親の苦労は、子供ながらに分かるものだ。親は「気を遣わなくて良い」と言うが、やはり経済的に厳しいのに我儘を言うのは良くないとつい飲み込んでしまうものなのだ。羅樹がそうだから、私もそういう感情を知っている。そうして飲み込んで、必要なことすらも言うのを躊躇ってしまう感情を、何度も見てきたから。
「帰りましょ、夕音」
「…うん!」
自動ドアから一歩外へ出ると、暗闇が辺りを覆っていた。ポツポツと開店中の印である電灯のみが光って、目が慣れるまでそこに何かわからない程に暗くなっている。駅の方へ向かって歩こうと足を踏み出した瞬間、隣にいた利羽が咳き込んだ。ゴホッゴホッと苦しそうな呻き声が聞こえる。私は利羽の背中をさすり、落ち着くのを待った。咳の間にありがとう、という言葉が聞こえた。
しばらくして利羽の咳は治った。
「…あり、がと」
「もう平気?」
利羽は俯きながらこくこくと頷く。喋るのはキツいらしい。私は近くにあったベンチに利羽を座らせる。
「…迎えに来て貰うわ」
俯いたままそう呟く利羽。楽しい時間が一瞬にして生命の危機…とまではいかないだろうが、悲しい思い出になってしまった。多分利羽の病状が悪化したら、利羽は自分を責めるのだろう。それは私にも責任があるのに、「夕音のせいじゃないよ」と言って。利羽はそうやって何度自分の虚弱体質に諦めてきたのだろう。恨んできたのだろう。悲しんできたのだろう。利羽は電話を掛け、40分くらいで来ると言う。
「寒いから中に入って待ちましょ」
利羽がそう言って元気なく微笑んだ。さっきまできらきらしていた瞳は何処へやら。何か悔しくて、近くの棚を見る。さっきまで見ていた利羽の好きそうな文房具があった。振り向くと利羽は別の方向を見ている。私はこっそりとそれを買って、簡易的に包んで貰った。
40分弱待った頃、利羽の携帯に到着を知らせるメールが来た。外に出ると白のワゴン車が止まっていた。
「今日はありがとう、夕音。また、月曜日ね」
そう言って車に乗ろうとする利羽の手を無意識に引っ張って、先程包んで貰ったプレゼントを握らせる。利羽は目を見開いて驚いた。
「こちらこそありがとう。また遊ぼうね」
ゆらっと赤色が利羽の瞳に揺らめいて、利羽は目を潤ませながら微笑んだ。
「帰りましょ、夕音」
「…うん!」
自動ドアから一歩外へ出ると、暗闇が辺りを覆っていた。ポツポツと開店中の印である電灯のみが光って、目が慣れるまでそこに何かわからない程に暗くなっている。駅の方へ向かって歩こうと足を踏み出した瞬間、隣にいた利羽が咳き込んだ。ゴホッゴホッと苦しそうな呻き声が聞こえる。私は利羽の背中をさすり、落ち着くのを待った。咳の間にありがとう、という言葉が聞こえた。
しばらくして利羽の咳は治った。
「…あり、がと」
「もう平気?」
利羽は俯きながらこくこくと頷く。喋るのはキツいらしい。私は近くにあったベンチに利羽を座らせる。
「…迎えに来て貰うわ」
俯いたままそう呟く利羽。楽しい時間が一瞬にして生命の危機…とまではいかないだろうが、悲しい思い出になってしまった。多分利羽の病状が悪化したら、利羽は自分を責めるのだろう。それは私にも責任があるのに、「夕音のせいじゃないよ」と言って。利羽はそうやって何度自分の虚弱体質に諦めてきたのだろう。恨んできたのだろう。悲しんできたのだろう。利羽は電話を掛け、40分くらいで来ると言う。
「寒いから中に入って待ちましょ」
利羽がそう言って元気なく微笑んだ。さっきまできらきらしていた瞳は何処へやら。何か悔しくて、近くの棚を見る。さっきまで見ていた利羽の好きそうな文房具があった。振り向くと利羽は別の方向を見ている。私はこっそりとそれを買って、簡易的に包んで貰った。
40分弱待った頃、利羽の携帯に到着を知らせるメールが来た。外に出ると白のワゴン車が止まっていた。
「今日はありがとう、夕音。また、月曜日ね」
そう言って車に乗ろうとする利羽の手を無意識に引っ張って、先程包んで貰ったプレゼントを握らせる。利羽は目を見開いて驚いた。
「こちらこそありがとう。また遊ぼうね」
ゆらっと赤色が利羽の瞳に揺らめいて、利羽は目を潤ませながら微笑んだ。
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