神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
378 / 812

12月11日 ドーナツ

しおりを挟む
目の前に広がるのは、きらきらと輝くドーナツたち。パステルカラーの艶のあるチョコレートが、揚げたてふわふわの生地を飾り立てる。その上に踊る砂糖菓子にチョコスプレー、プレッツェルの顔、きな粉に粉砂糖に生クリーム、カスタード。甘い物の楽園のようなそのショーケースに、私と利羽は目を奪われていた。特に利羽はドーナツが好物らしく、目を輝かせてじっと見ている。私は抹茶生地にホワイトチョコがかけられ、その上に顔が描かれたものと、苺クリームが挟まれたフレンチクルーラーを頼んだ。他にも美味しそうなものがたくさんあったので、帰りにお土産でも買おうかな、と迷ってしまう。
「利羽はまだ迷ってる?」
私の声に、ショーケースを食い入るように見ていた利羽は我に返ったようだ。恥ずかしそうに顔を赤らめ、一歩後ろに下がる。ショーケースに額が付きそうなほどに前のめりになっていた。
「え、えっと、どうやって…」
泣きそうな顔で見てくるので、何が分からないのかを聞きつつ助け舟を出す。どうやら注文の仕方に不安があるようだ。財布は準備万端です手元にあるので、お金の概念が分からないという世間知らずにありがちなことは無いだろう。実際、学校の購買や食堂で買い物はそこそこ経験があるはずだ。
「すみません」
私が店員さんを呼ぶと、にこにこと笑顔の店員さんが「はーい」と返事をしてくれた。利羽は迷いながらも、指でさしながらゆっくりと商品名を言い終えた。利羽が頼んだのは、定番のプレーン生地にチョコレートとカラーチョコスプレーがかかったもの、グレーズされた艶々の生地にカスタードクリームが挟まれたもの、サンタクロースを模したドーナツだった。どれも美味しそうで、可愛くて、食べるのがもったいない。ドーナツをトレーの上に乗せて持ちながら開いた席に座る。利羽はどれを最初に食べるか迷い、でももったいなくて食べられず、それでもドーナツから漂ってくる甘い香りに食欲をそそられ、と何かと格闘しているようだった。私はそわな利羽の様子が微笑ましくて、手をつついてみる。
「写真、撮らない?」
携帯を取り出して、ドーナツ単体の写真を撮る。光の加減が丁度良く、チョコの艶が更に際立っていた。私の真似をして利羽も撮ってみる。残せたことに満足したのか、嬉しそうに食べ始めた。私はその様子をパシャリ、と写真に残した。急なシャッター音に驚いたようで消すように抗議されたが、写真を見せたらちょっと恥ずかしそうに黙ってしまった。良い笑顔と、ドーナツの映り加減が上手い具合であり、欲しくなったのだろう。小さな声で「後で送って」と言われた。
ちょっと遅めのおやつは、冬の帳が下りるようにあっという間だった。
しおりを挟む

処理中です...