神様自学

天ノ谷 霙

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胸裏complex 利羽 (短編)

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約束していた水族館を回った後、お洒落なカフェテラスで昼食を取ることにした。蒼くんがお勧めしてくれた場所で、若者向けなのか少し値段は抑えてあり、財布に痛手ではない。
「ごめん、ちょっとお手洗い」
そう言って蒼くんが立ち去った後をぼんやりと眺めていると、またさっきの記憶が呼び起こされる。
最初に話した女の子、夕音。それから仲良くなって、一緒に旅行に行くような仲である。クラスが2年連続で同じだったことから、行動もよく共にしている。それまで友達と呼べる友達のいなかった私からしたら、初めて出来た「友人」なのだ。大切に思うのも、これからも仲良くしたいと思うのも当然だろう。心配なのは、最近体調が悪そうなことだ。修学旅行明けから、ぼんやりとしている。ただでさえ悩みやら何やらで体調が悪そうなのに、北原くんのあの態度だ。多分、告白か何かでもしたんだろう。そうじゃなきゃ、あんなバレバレな態度を取らない。普通は本人に「好き」だとバレないように振る舞うため、分かりやすいアピールなどしない。それでも分かりやすい人はいるものだが…と、それは置いておく。ただ、北原くんの態度は開き直っている感じがする。「好き」であると伝えた後なら、本人が知っているのなら、周りに知られようと構わないという態度である。
「…それは、ちょっと違うんじゃないかな」
ぽつりと、つい口に出してしまったらしい。慌てて口をつぐみ周りを見回す。幸い、聞いている人はいなかったようだ。誰も私の方を振り向いていない。ほっと胸を撫で下ろし、思考を再開する。
北原くんの分かりやすい態度は、外堀を埋める目的もあるのだろうか。噂が流れれば、自然とその2人に対して、「付き合っているのを隠している」という認識が生まれるだろう。そうすれば周りが気を遣い、意識せざるを得ない。
でも、それでも。
夕音には榊原くんという想い人がいる。1年生の時に勘付いて聞いたことがあった。夕音が頬を染める相手。声のトーンが多少変化する相手。そんな相手は榊原くん、ただ1人だった。北原くんは気付いているのだろうか。あの幼馴染みの距離感に。違和感一つ、持って接すれば分かりやすい方だとは思うけれど。
あともう1人気になるのは、北原くんに懸想している女の子だ。夏の旅行中、聞こえてしまった2人の話。「好き」が分からない彼女と、それに答える夕音。私は気付いていた。知ってしまっていた。
あの日夕音に心を開いた少女、夏川さんが、北原くんに想いを寄せていることを。
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