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金色の思い出 利羽(短編)
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今日は、デートというやつだ。私は出来る限りの可愛い格好で、蒼くんを待つ。駅を行き交う人の中に蒼くんがいないかそわそわしながら、前髪を整える。見慣れたあの人がいつ来るのか、楽しみもあるが不安もある。
ちゃんと可愛いって思って貰えるかな…。
昔から体が弱くて、友達と遊ぶことも出来なかった。私の病弱さを嫌って、友達になってくれる人もいなかった。だから少し遠くの学校へ通うことにした。誰も私を知らない、私のことなど聞いたこともない人達の元へ。それは成功であったが、無理言って参加した入学式で私は体調を崩してしまった。気持ち悪くて、目眩がした。しかし初日から体調を崩せば、また小中の二の舞になってしまう。もう同じ運命は辿りたくない。その一心で堪えていた。それでもやっぱり体はふらついてしまうもので、誤魔化そうにも誤魔化しきれなかった。何とか入学式を乗り切って、クラスメイトとの顔合わせ。入学式中もクラスごとに並んでいたが、私は誰も知らないのでしっかり顔を見るのはクラスに入ってからになる。その顔合わせに参加出来るか、ちょっと怪しいところではあるんだけど。
廊下の人がいないところでちょっと休んでいた、その時だった。
「ねぇ」
「っ!!」
びっくりして、声にならない声を上げてしまった。私に話しかけた女の子も目をぱちくりと瞬いて、ふっと笑った。金の長い髪が、ゆらゆらと揺れる。
「体調悪いの?大丈夫?」
血の気が引いていくのが分かった。バレたくなかった。私は勢いよく立ち上がり、女の子に詰め寄った。
「大丈夫!大丈夫だから…秘密にして!!」
急に大声を出したからか、咳が出た。女の子は驚いていたが、私が咳をしているのを見て背中をさすってくれた。優しくされても「最初だけなんだろうな」と思ってしまう。
「慣れない人ばっかりで不安になっちゃったのかな。無理はしないでね」
ちらっと女の子の顔を見ると、本気で心配しているような眉下がりの表情だった。朱色の瞳が、まっすぐ私を捉えている。
「あ、自己紹介してなかったね。私は稲森 夕音。2組だよ」
「…っわ、私は蝶野 利羽。同じクラス…」
「本当?良かったぁ。知っている人誰もいなくて不安だったんだよね。一緒にいても良い?」
「う、うん…」
「これから宜しくね、えっと、利羽ちゃん!」
名前なんて両親以外に呼ばれたの、いつぶりだろう。何だかくすぐったい。私は体調が悪かったことなんて忘れて、心の底から安心してしまった。
「うん、宜しくね。夕音ちゃん」
考え事をしていたら、ついボーッとしてしまったようだ。きょろきょろと周りを見回すが、蒼くんはいないらしい。安堵のため息を吐くと、コツンと額にゴツゴツした何かが当たった。
「体調悪いの?無理しないでよ」
顔を上げると、そこには蒼くんがいた。手にはペットボトルを持っている。
「えっ、あ、蒼くん?さっきまで、いなかっ…あれ!?」
「え、いたけど…ボーッとしてるから、体調悪いのかなと思ってジュース買いに行ってたから、気付かなかった?まぁいいや、あげる」
蒼くんはそう言って、私にペットボトルのジュースを渡してくれた。それは私の好きな味だった。
ぎゅっとペットボトルを握りしめて、微笑む。
「大丈夫、ちょっと思い出していただけだから」
「思い出すって、何を?」
金色の髪が、私のまぶたの裏でもう一度揺れた。
「ちょっと、懐かしいことかな」
含みを込めた口調で言って、私は笑った。
ちゃんと可愛いって思って貰えるかな…。
昔から体が弱くて、友達と遊ぶことも出来なかった。私の病弱さを嫌って、友達になってくれる人もいなかった。だから少し遠くの学校へ通うことにした。誰も私を知らない、私のことなど聞いたこともない人達の元へ。それは成功であったが、無理言って参加した入学式で私は体調を崩してしまった。気持ち悪くて、目眩がした。しかし初日から体調を崩せば、また小中の二の舞になってしまう。もう同じ運命は辿りたくない。その一心で堪えていた。それでもやっぱり体はふらついてしまうもので、誤魔化そうにも誤魔化しきれなかった。何とか入学式を乗り切って、クラスメイトとの顔合わせ。入学式中もクラスごとに並んでいたが、私は誰も知らないのでしっかり顔を見るのはクラスに入ってからになる。その顔合わせに参加出来るか、ちょっと怪しいところではあるんだけど。
廊下の人がいないところでちょっと休んでいた、その時だった。
「ねぇ」
「っ!!」
びっくりして、声にならない声を上げてしまった。私に話しかけた女の子も目をぱちくりと瞬いて、ふっと笑った。金の長い髪が、ゆらゆらと揺れる。
「体調悪いの?大丈夫?」
血の気が引いていくのが分かった。バレたくなかった。私は勢いよく立ち上がり、女の子に詰め寄った。
「大丈夫!大丈夫だから…秘密にして!!」
急に大声を出したからか、咳が出た。女の子は驚いていたが、私が咳をしているのを見て背中をさすってくれた。優しくされても「最初だけなんだろうな」と思ってしまう。
「慣れない人ばっかりで不安になっちゃったのかな。無理はしないでね」
ちらっと女の子の顔を見ると、本気で心配しているような眉下がりの表情だった。朱色の瞳が、まっすぐ私を捉えている。
「あ、自己紹介してなかったね。私は稲森 夕音。2組だよ」
「…っわ、私は蝶野 利羽。同じクラス…」
「本当?良かったぁ。知っている人誰もいなくて不安だったんだよね。一緒にいても良い?」
「う、うん…」
「これから宜しくね、えっと、利羽ちゃん!」
名前なんて両親以外に呼ばれたの、いつぶりだろう。何だかくすぐったい。私は体調が悪かったことなんて忘れて、心の底から安心してしまった。
「うん、宜しくね。夕音ちゃん」
考え事をしていたら、ついボーッとしてしまったようだ。きょろきょろと周りを見回すが、蒼くんはいないらしい。安堵のため息を吐くと、コツンと額にゴツゴツした何かが当たった。
「体調悪いの?無理しないでよ」
顔を上げると、そこには蒼くんがいた。手にはペットボトルを持っている。
「えっ、あ、蒼くん?さっきまで、いなかっ…あれ!?」
「え、いたけど…ボーッとしてるから、体調悪いのかなと思ってジュース買いに行ってたから、気付かなかった?まぁいいや、あげる」
蒼くんはそう言って、私にペットボトルのジュースを渡してくれた。それは私の好きな味だった。
ぎゅっとペットボトルを握りしめて、微笑む。
「大丈夫、ちょっと思い出していただけだから」
「思い出すって、何を?」
金色の髪が、私のまぶたの裏でもう一度揺れた。
「ちょっと、懐かしいことかな」
含みを込めた口調で言って、私は笑った。
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